ENo.0053　ローデット・ダイス

何から話をすればいいだろうか――


五年前、霧が晴れて世界に青が綺麗に見えた。
霧ばかりのこの世界に喜ぶ人は少なからずいただろう。
だが、その状況を喜べない人もいただろう。


私、ミヅカ・ヘクドライトは後者だ。


元々、私の故郷では『賽の眼』という目を持った人達が生活していた。
霧もとても濃く、それに慣れ、移動手段に利用するほどで
利用するとは何か、この目を狙う輩から逃げる為、あるいは追い払う為のものだ。
何処かの富豪はこの目を持ち、こう言ったそうだ。

「この眼を持っていれば幸運が訪れる」

その噂を聞いた富豪は人を雇い、私の故郷の人達を狩ろうとした。
億だの金をつけられるもんだから雇われる側のやる気も凄いらしい。
だから霧の濃い故郷は色々と融通が利いて
霧を利用し隠れる手段や一族だけが知ってる道など、色々な手段で逃げてきた。

私自身は『ローデット・ダイス』というヒューマノイドとして故郷の外を活動していた。
外で見つけたいものがあった、親が居なくて故郷に居辛く
様々な理由はあったが一人、素性を明かさないままハイドラライダーとして過ごしていた。


それが霧の晴れる前までの出来事。


あの日、霧が晴れてからというもの隠れていた場所が容易に見つかるようになったのだろう。
オークションを見れば、一族の眼を何度も見る羽目になり嫌気がさす。
しかも霧がないことによりヒューマノイドを操作していた場所もいつバレるか分からず
一人でいることが不可能となり、とある整備工場に身を隠すことになった。
その整備工場は僚機が世話になっている『タカムラ整備工場』と言った。


バルトロイ・クルーガー、私の僚機の人物の名前だ。


ヒューマノイドから生身の生活になって色々あるが
私がミヅカと名乗ることは極稀で、それこそ整備工場のリタやチカなどよく世話になる面々だけである。
そしてこのバルトという男は
初めて自分が『ローデット・ダイス』ではなく『ミヅカ・ヘクドライト』と素性を明かし
僚機以上の大切な存在に初めてなった人物である。


霧が晴れている日々は好きではなかったが
バルト達と過ごす日々は、嫌いではなかった。


だから、霧がまた現れて漸く狩りが減るのかと安堵したとき
彼が帰ってきたときのリタの青い顔を見て、彼がこちらを向いて言った一言に
何を返していいのかがわからなかった――

それは地中に出来た、真っ直ぐに伸びる洞窟のような空間だ。

一つ明かりを付けたのなら、きっと貴方はそれが人工のトンネルのようなものだと気付くだろう……そう、丁度中型のハイドラが通るほどの。