ENo.0082　アキ・ニタドリ

「良く無事だったな……」

黒焦げになった機体を見上げ、ひとりごちる。

「うう……ごめん」

隣で木箱に突っ伏していたアキは、顔も上げずにそう返した。
アキ・ニタドリの最初の仕事は、機体投下後すぐにテンペストの主砲「アクエリアス」の直撃を喰らい、姿勢制御装置が故障。
ふらふらと着地したところを装甲DRポーンに捕捉され、電撃を喰らい沈黙。
という、なんとも情けない結果に終わった。
本来なら死んでも可笑しくない状況ではあったが、当の本人は右腕の軽い火傷だけで済んでいた。

「いや、今回は仕方ない部分も多分にある。　パイロットが無事なだけで十分だったよ。」

そう、今回は戦場との相性が悪かった。　ヒルコ教団から貸与された機体は電子防御が可能なものが一つもなく、
全体的に軽量なパーツで構成されていた。　アキの要望である重量射撃機体とは程遠い構成だった。
ヒルコ教団は企業から距離を置いている立場にあり、『彼女』からの妨害を回避できる可能性が高い、という理由で彼らをスポンサーに選んだのだが…。

「一つ聞くけど」

「なんだ？」

「初回で墜ちたのなんて私だけだよね？」

「……そうだな」

「そっかぁ…他のみんなは上手かったからねぇ……」

「そう落ち込むなよ…逆を言えば、お前らの中で初回で墜ちても無事だったのはお前だけだ」

「……」

駄目か。　自分でも下手な慰めだと思ったが…。未だに彼女は木箱に突っ伏したままだ。

「まぁいい、続けるぞ。　正直現在のこの機体じゃ、次の仕事も無事にこなすのは難しい。　大きく機体構成を変える必要がある」
「現在伝手を使ってできる限りいい性能のパーツを集めている。　次の仕事まで一週間しかないが、機体調整と操作訓練を同時にやることでなんとかする」

「えぇ～…」

「……俺の見立てでは、お前の操縦は５年前から変わらず、いいセンスをしていた。　機体さえ変われば、絶対に次は負けないさ」

その言葉を聞いたアキは、顔を上げこちらを向く。　難しい顔をしているが、その目には希望が見えていた、ような気がした。

「そんなに気を落とすなよ。　お前だって、まだ諦めたわけじゃないだろ？」

「ん。　まぁ、そうだけど…」

「よし、それじゃあ早速訓練を開始するぞ。　シミュレータの準備してくる」

そう言って、ガレージに戻ろうとしたが…

「ちょっと待った、気落ちした元教え子にもうちょっと何かないの？」

アキに呼び止められる。

「…例えば？」

「お酒とか！　気分を上げるにはこれが一番でしょ？」

「アホゥ、出落ちしておいて酒を要求するやつがあるか！　次墜ちなかったらプレゼントしてやるよ！」

「あーっ、言ったわね！？　バカにしないでよね、次は絶ッ対活躍してやるから！」

そう言ってこちらに駆けてくるアキは、なんとなく――嬉しそうな顔をしていた。