ENo.0209　赤目

私が霧アレルギーになる前の話だ。ウォーハイドラが入り乱れる戦場を遠く離れた場所で観察したことがある。傭兵集団特有の実に統一感のないさまざまな機体が私のスコープ越しにもみくちゃになっており。それは私にどこか、世界の異なるヒーローの人形同士を戦わせる幼い子供の部屋遊びを連想させた。

雪の中に中隊ほどの人数が立つと、無数の白い息があわさり遠くからでも見つかってしまうというが、ウォーハイドラの積んだミストエンジンが出す排気ガスもたぶん、そのように、戦場とそうでないテリトリーを色分けするようにそこだけ不気味に霧が濃かった。スコープの霧除去フィルター機能が働いていなければ、遠目には巨大な綿菓子が大地に横たわるように見えただろう。その巨大さといったら、ヨルムンガルド、あるいはビヒモスといった怪物のように。

その戦場を、霧を貫くようなエネルギー粒子の光が駆け抜けていった。それは吸い込まれるように…戦場に交錯する無数のウォーハイドラのうちの一つの、そのコクピットに直撃した。

「うわっ」

私が思わず顔を伏せてしまったのは、粒子の熱に焼かれ、一瞬のうちに全身を泡立たせ蒸発するパイロットの今際に思いを馳せたからではない。

女の幽霊が絶叫したかのような、その粒子砲の発射音が、私の鼓膜を不快に震わせたからだ。侵入した声は、私の脳味噌を引っ掴んで何度も何度も揺さぶり回した。

それこそが曰く、食らって死んだらヴァルハラに逝く魂すらも残らないと揶揄される、「亡霊砲」と悪名の付いた粒子砲の発射音だった。

それを教えてくれたのは私の隣にいた人で、まさかその時には傍観者であった自分が、亡霊砲を担いだウォーハイドラをこさえてあの戦場に立つことになるとは、思いもしなかったのだが…。

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