ENo.0096　オルト・イスケー

「ｻﾞｯ…ｻﾞｻﾞｯ…戦闘終了後の回収を要請します。墜落座標は後ほどお送りします……ｻﾞｻﾞｯ」
「え？」

　悠々と領域離脱と出現を繰り替えし、ぷかぷか次元の海を漂っていたところに僚機──アンフィニちゃんから切羽詰まった声での通信が入ってきたのは戦闘の中盤だった。

「待って待ってどうしたの？！大丈夫？？アンフィニちゃん！？？」

　急いで次元の海を飛び出し戦場に『再出現』する。次元の壁を超えた衝撃で機体はきしむも、元々壊れるべきところだけ壊れるようになってるみたいで、はらりはらりと花びらのように装甲は剥がれ落ちる一方、心臓部である水槽にはヒビ一つ入っていない。それはいいんだけど、いま大事なのはそっちじゃなくて。
　起動しっぱなしのレーダーをフル稼働してぐるりと戦場を見渡すと、ぽつんと小さな彼女の機体が──煙をあげて飛び回っている。

「……さっき墜落って言って…？いやでもアレ大丈夫じゃなさそうだよなぁ」
「オルトさあ～～ん！！！」

　半ば泣きそうな、オペレーターの声が割り込んでくる。顔は表示されてないのに、ありありと表情が浮かんできそうな。
　カオリンのゆるさに、混乱していた頭が少し冷静になる。そこまで危機的な状況ではないらしい、みたいだ。

「アンフィニさん……えーっと『Balar』なのですが」
「うん」
「どうやら許容ダメージを超えてしまったみたいで、数分後に緊急着陸するようです。アンフィニさんの『いる』ブラックボックス自体は無事でしょうから、回収をお願いしたいと」
「なるほど……今のアレは？」

　煙を吐きながらも、全長2mにも満たない小さな『瞳』はけなげに戦場に敵座標を送り続けているのが見える。

「アレは『オーバーロード』のようですね。被撃墜間際に機体を使いつぶすようにギリギリまで動き続ける機構です」
「ほんほん」
「オルトさんの機体にも搭載されてますよ」
「……発動しないでほしいなぁ……カオリン、Balarの着地予測はできてる？」
「ええ、しっかりばっちり計算済みですよぅ！そちらの表示されてるはずです」
「OK、敵が引いてから向かうね」

　──戦闘終了後、指定されていた地点へと向かう。
　軽くひしゃげた卵の殻のような機体の横に着陸、水槽からいったん出て、中の様子をうかがう。白い殻の中心部に、黒くずっしりした立方体が鎮座している。

「……」
「……」
「アンフィニちゃん、大丈夫……？」
「……ええ、このブラックボックスは撃墜で壊れるほどやわではないので……」
「よかった。そしたらOctolotuSに格納して……」

　改めてみるとOctolotuSもだいぶボロボロである。カオリン曰く「一撃でも掠ったら墜ちるくらい」とは言ってたけど、安全な収納スペースとかあるんだろうか。

「一応ここの上でいいか。揺れたらごめんね？」
「はい」

　水槽の上にそれとなく固定し、少しガタピシいう機体を再度浮かせて帰投する。もしかしなくてもだいぶ過酷な職場かな？と、すこし遅すぎる気づきをしたけれど。
　少しだけ僚機と……アンフィニちゃんと仲良くなれたなら、いいかなという気もした。

「えーっと今回はセクション攻略戦ですね」
「情報が錯綜していて……デバステイターに関する情報も解読が間に合っていないようです。古文書？にはあったらしいんですけど、僕らはこちらでは新参だからデータベースの蓄積も浅いですからね……」
「各戦場、十分注意していきましょう」

「あ、ファティマさんがご活躍されてるコロッセオ、盛況でよいですね！こうして宣伝していただけると僕らも助かりますし」
「オルトくんところから出してるレーダーの売れ行きもいいみたいで！バンバン売っていきましょう！」