ENo.0184　パスタの妖精

別に、なんてことはなかった。

世界なんてものは、ただの居場所に過ぎなかった。

雨は歌い、
草木はさえずり、
魚たちはゆらりと踊り、
鳥たちは落ち葉をかき回し、
人々はその口舌で雄弁と語る。

ただ、それだけのことだったのかもしれない。


けれど、彼女は知りたかった。

雨は歌わないことを。
草木はさえずることはなく、
魚たちはただ泳いでいるだけで、
鳥たちはただ飛び立つだけであること。
そして、
百の言の葉を語ろうと、一の事には及ばないということを。



欠けていたのは自分だった。
と、己の腸（はらわた）を抉られ、気がついた。


そこにはなにもなかった。

満たされていると信じていたものが、何も、何も。






Follia・molte





彼女が望んだ結末。
しかし、それは残酷にも拒まれた。


いくらでもやりようはあったはずだった。
手本はいくらでもあった。

それでも彼女は、本物であろうと肩肘を張った。
世界なんてそんなものだろうと主観することができなかった。



ただ、目の前の獲物を喰らうことしかできなかった。

パスタさんのキッチンですね。おいしいよ🍝