ENo.0219　アクロ

よう、お仕事は順調かい？　こっちはぼちぼちだ。
遺跡の探索で目新しい物が出てこないってのもあるけれど、一番はアレ。カラテマスター。
彼女、最近元気ないんだよね。いや、こまめにラブレターは送ってくるんだよ、泣けるじゃないか。
口を開けば「ころす」だの「たたきつぶす」だの脅してくるけどさ、現実は非情であるってな。
うん、お偉いさんの飼い猫が前線に出てこれるくらいには、優勢だと思うよ。今は。
これがまた聖歌隊みたいな可愛い声で鳴くのよ。それが二匹！　さすが金持ちはご趣味が違うね。
「猫が一匹、遺跡に逃げ込んだから迎えに行ってほしい」とさ。
確かにこいつらと似た姿なら、見間違える心配もあるめぇ。
ああ、でも、カラテマスターに浮気を勘ぐられて逆上されちゃうかもしれないな。嫉妬は怖えよなぁ。

――――。

寒い。といっても、数年前の大寒波と違って、もっとこう‥‥ゆっくりと冷えていく感覚。
最初はちょっと靴下を重ねるくらいでやり過ごして、気づいたら体が動かなくなっている様な。
（エンジンを積まない連中は、どうやってこの冷気を凌いでいるんだ？）
豆の代わりによく分からない根っこを煎じたコーヒーを飲み干し、ラジオに耳を傾ける。
遺跡の中から聞こえる声、外の町から届く声。ハイドラの外を流れる声――

雑居ビル地下のゲーセンでは、今日もキッズたちが剥きたての角を突き合わせている。