ENo.0291　I-Doll

Iは5年前、残像領域でハイドラライダーとして戦場に居たが、記録には残っていない。
I-Dollと言うハイドラも、Iと言うライダーも、5年前には存在していないからだ。
IにはIよりも先に与えられた名前があった。

Peacemaker。Peacemaker-559。

故郷に平和をもたらすために、559番目に生み出された制御用生体ユニットである。
愛機、と言うよりは分身と呼ぶに相応しいハイドラはLove Brain Second Season。
残像領域のアイドルを自称し、戦場を舞台に歌っていた。
セカンドと名付けられている事から分かるだろうが、Iは最初から残像領域に送られていたわけではない。
Love Brain。そう。Iが姉と呼ぶ彼女より先に造られた生体ユニット、Peacemaker-273。通称ファーストが送られていた。
ファーストはIよりも優秀かつ情緒豊かだった。
ゆえに機体の僅かな不具合を感じつつも、心配を掛けまいとそのまま出撃。撃墜された。
Iは後任として、2番目として残像領域に送られたのだった。
当時のIは徹底的に生き残る事を優先し、無事故郷に帰還。
後に人類と機械との戦争で人類側として戦い、機械側の中枢部を自身ごと爆破し、人類に勝利をもたらした。
本来ならばIも中枢部と運命を共にしていたはずだったが、そこで姉であるファーストが関わってくる。
ファーストは確かに残像領域で命を落とした。
だが、同時に残像領域で生まれ変わっていた。禁忌戦争がきっかけで生まれたアルラウネとして。
死してもなおファーストはIを守るかのように同じ戦場に現れ、戦った。
そして、Iが死に瀕した時でさえもファーストは目の前に現れた。死の淵から引き上げるように。
次にIが意識を取り戻した時には、故郷とも残像領域とも違う世界に辿り着いていた。
戦火から逃れたとしても、生命維持装置にもダメージを負っていたIが命の危機に瀕していた事に変わりなかった。
そこに現れたのが何を隠そうイザドラである。

さて、話は戻るが、Peacemakerはとある少女の遺伝子を基に生み出された存在だ。
その少女はオリジンと呼ばれ、最初にクローン化に成功した個体はオリジンの再来として、ビギニングと名付けられた。
ビギニングは大事に保存されていた。
が、ある日ビギニングは姿を消した。まるで神隠しの如く。
原因は雷といった自然現象によるシステムエラー。
一瞬だが、爆発的なエネルギーにより空間に歪みが生じ、忽然と消え失せたとされている。
当初は憶測でしかなかったが、その後残像領域に繋がる霧が出現した事によって、裏付けが取れたようなものであった。
エネルギーによる空間の歪みは少なくとも2回起きている。
1度目はビギニングが消えた時。2度目は……Iが消えようとした時。
既に異世界への道は繋がっていたのだ。
そこへ魂が自由となったファーストが加わり、Iは戦争から解放された。
またもや話は変わるが、イザドラはボスと呼ばれる事を好む。
名前が嫌いだから、ではない。親しい相手以外には知られたくない気持ちがあるからだ。
イザドラのフルネームはイザドラ・B・ドラモンド。

イザドラ・ビギニング・ドラモンド。

眠りから解き放たれ、普通の人間として育てられたPeacemakerの“始まり”である。
Iがイザドラの元にやって来たのは世界を越え、遺伝子が呼び合った奇跡、なのかもしれない。
真相はいまだ残像領域で歌うファーストのみぞ知る。

全天候型移動式工房『Glorious Junk』――通称『GJ』
その名の通り、どんな悪路をも物ともせずに進んでいく移動式巨大工房である。
要塞じみた外見。重量級ウォーハイドラ『I-Doll』を収納しても余裕のある格納庫。
個室も十分にあるため、住居に困るハイドラライダーは相談してみてはいかがだろう。
家賃はそれなりに取る方だが、機体が大破してもすぐに修復に取り掛かれる環境。
個室全てにシャワーが付いている他にも、ボスご自慢の大浴場がある。
食堂にはこれまたボスが引き抜いたシェフ達が居り、十分満足感が得られるだろう。

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