ENo.0237　ルート・ロックサイド

　今日、ボクは初めて死亡許容のスイッチを入れた。
これで、ハイドラが撃墜されれば、その瞬間にライダーを強制脱出する機能は停止した。
常にHCSに掛かっていた負荷が軽減され、ハイドラは今まで以上に力を発揮することが出来るだろう。
だけど、それはつまりハイドラが堕とされればボクは死ぬということである。
今までとは違い戦場からの撤退は自分自身の判断でしなければならない。
この日記が、出撃前に書くこの日記が遺書になるかもしれない。

　ネリーさん、有り難う。
もしボクが死んだ後に、この日記を見つけたならばこの言葉だけは伝えておきたい。
そして、自分を責めないで下さい。
ボクはボクの意思で選択したのだから。

　ボウマンさんからは力を得たければ修羅になることだと言われた。
戦場での躊躇いや、恐怖、それらを押し殺すのではなく、自然体で受け止められるようになれば、ライダーは最強の兵器になれる。
言わんとすることはそういう意味だと思う。
それは全くの理に適った話だろう。
ボクがマーテルさんの乗るハイドラが人間の様な感情を目指すのに疑問を覚えたのも当然である。

　誤解のないように記しておくけれど、ボウマンさんはだからボクに修羅になれとは言っていない。
寧ろそうなっては欲しくないのだろうと思えた。
そして、師であるネリーさんに相談するようにとも言われた。
だけど、ネリーさんに相談することは出来なかった。
ネリーさんは止めると思ったからだ。

　ネリーさんは凄腕のライダーだけれど、それはボクの目指すライダーとはまた違うタイプだ。
ボクが憧れたように、人を惹きつける力を持ったライダー。
でも、それと同じタイプのライダーがボクの想像するライダーに敵うとは思わなかった。

　ボクが想像するライダーは、命を棄てることを恐れず、必要であれば軽量機でも突撃し、嬉々として敵機を打ち倒す…
まさしく修羅の様なライダーだ。
そして、何よりも計算が通用しない超常の何かが有る。
きっと、父も母も、そして故郷で無敵と謳われた戦士もその力に敗れたのだろう。

…
……
………

　着信が有りました。再生しますか？

　ピッ。

「次はミッションDだ。
　未確認機『レッドドラゴン』の力を最大限に警戒しろ。
　奴の火炎は生半可な防御のハイドラならば一瞬で炭化させる。」

　着信が有りました。再生しますか？

　次のメッセージを再生します。

　ピッ。

「また支部の一つが潰された。
　今度は以前から捜査されていたようだけど、着実に僕達は追い詰められている。
　こうなれば逆転の芽は遺跡の力しか無いかもね。
　キミも聞いただろう？
　遺跡の中には無限の力が有るって、誇大広告にしても魅力的じゃないか。
　だから、僕達もそれを手に入れる為に動くことにした。」

　次のメッセージを再生します。

　ピッ。

「今日は。
　フブキ・ライダー斡旋商会です。
　この度、商会ではピザ工房を設立しました。
　皆さんのご利用をお待ちしています。
　尚、契約者の方には優待価格として1割引でピザを購入出来る特典が付与されました。」

フブキ・ライダー斡旋商会

　企業とライダー間の契約を仲介することで利益を上げる比較的大手の契約仲介企業。
前身は『サインス人材派遣機構』
5年前の戦乱後、程なくして名前を改めると共に業績を伸ばしてきた。

　企業の需要を満たすライダーの頭数を迅速に集める為、ライダーを欲する企業側の評判は悪くない。
ライダーを斡旋した企業からの謝礼がフブキの主な収益源である。

一方で競合企業からは『倫理が存在しない企業』と陰口を叩かれている。
理由としては、仲介するライダーが犯罪者として指名手配中の人間であろうと、年齢が一桁であろうとも構わず仲介する為である。
ライダー側が最低限の必要な書類さえ出せばOKなのである。

尚、ライダー側には、前述の誰でも簡単契約可能、仲介料と称して過分な手数料を搾取されない、余計な手間である企業との契約調整をフブキが代行するなど評判は悪くない。