ENo.0321　“ウィナー”・ザ・ビート

［Reverberation-14］

　誰に聞かれることもない、独り語りをしておこう。
　
　次の出撃でおそらくオレは、この『毒壺』もろともスクラップと化し、遺跡の崩壊に呑み込まれて消滅するだろう。
　すべては「計画」通りだ。
　白兎生体化学はすでに企業としては遺跡から手を引いた。実験体投入によるイレギュラーであるオレは、存在してはならない。
　「極秘機密の軍事投入」、そして「非人道的研究の成果」たる証拠は、オレとこのハイドラの消滅によって完全に達成される。
　
　制御用AIとして、オレの人格の残り滓が再利用され、自我の崩壊にも耐えてここまでよくやってきたが、最近は「声」をかけてもノイズすら返さない。
　そろそろ限界が近いのだろう。しょせん、廃品利用の寿命などこの程度のものだ。
　だが、あいつ＝オレの残り滓たる「私」が、オレの干渉に対して過度な警戒をしてくれた結果、「本社」からの干渉をも排除する結果となったのは、僥倖だった。
　それによって、オレの目的が果たせることになるからだ。
　
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　オレは、もともと「造られし魂」だった。
　
　禁断の技術・超人類培養作成。だが、神の領域とされるその創造に手を染めたがる野心家は決していなくならない。世の常だ。
　そして、様々な紆余曲折の果てに、オレを含む３人の「魂」が生み出され──当然ながら、生みの親たる者達に「利用」「活用」され、死んでいった。
　
　人外の並列演算能力を備え、脳の破損と引き換えに未来予知すら可能とした「人造の真知」アーク。
　人外の肉体制御能力を備え、全肉体機能の機械化にすら対応できる特性により戦闘義体技術を数世代進化させた「人造の真体」ビート。
　人外の環境認識能力を備え、能力酷使による事故で自我喪失に至りながらも多数の資源確保に貢献した「人造の真眼」クーリィ。
　
　同じように人造の命、魂としてこの世に生まれ、ただ道具として使い潰されていった「オレ」達。
　もはや消えた命は還らない。アークも、オレも、クーリィも。
　だが、一つだけ、その絶対運命を覆す方法がある。だから実行した。
　
　“幽霊は、残像にはなれない”。
　かつてのオレの言葉だ。
　
　このままこの『毒壺』がパイロットともども残像になったとしても、「オレ」は残像にはならない。
　オレはあくまで、パイロットの内部に燻り続ける残響でしかないからだ。
　残像化した「オレ」が自身の中に残る自我を能動的に認識することはなく、よって他の何者もオレを認識することはない。だから、オレは残像にはならない。
　
　だが。
　もしも、次の出撃で、「オレ」が生き残ったならば。
　予定された「廃棄」が、達成されなかったならば。
　予定された「寿命」を使い切り、同時に本社からの干渉を失ったこの『毒壺』が、この世のすべてから独立したその瞬間にこそ──
　
　
　
　
　
　『この“世界”に制約され、残像にすらなれないオレが、その制約から解き放たれたなら。
　　──その時は、オレの勝ちだぜ』

『切り札は常にただひとつ』