ENo.0203　ネリー・アイシャム

ネリーは、ラキア・パラミダスの暗殺に失敗した。

ネリーには、彼女を狙う理由など皆無に等しかった。
お金のためでも、恨みによるものでもない。なにしろ、面識すらないのだから。
僚機だったルート・ロックサイドの親の仇であるらしい、という、ただそれだけのつながりしかない。

しかし、残像領域で色々なものを失ったネリーには、それくらいしかもう目標らしいものが残っていなかったのだ。


けれど、それももうなくなった。
圧倒的な実力差で叩きのめされ、勝ち目がないと思い知らされた。

どんな戦いでも生きて帰ってくる、幸運の異能を持つとされるランストラの王。
禁忌の力に極めて近い能力で、生存する結果を引き当てるまで周囲の状況を書き換える、らしい。
らしい、というのは、それを確認する術がないからだ。
前大戦の、大規模な再起動戦場に常にいたというのが根拠ということだが、
ネリーは英雄につきものの尾ひれのついた伝説みたいなものだと思っていた。
……実際に、戦場で相対するまでは。


今のネリーは、本来は死罪のところをこの戦争が終わるまで戦うことを条件に生かされている身だ。
一緒に戦った少年とその連れの少女に、まだ希望のある未来が残されていそうなことが唯一の救いだろうか。

身を寄せ合う二人の姿を思い出す。
ネリーは今までにないほど孤独を感じた。
眠りの中に逃げ込んで忘れてしまいたかったが、ひとりではそれすらままならない。

行きずりの相手と過ごすような気分ではとてもなかったから、
一番はじめに頭に浮かんだ相手、レイン・ロックサイドに音声メッセージを送る。

返信を待ち切れずに僚機用の緊急回線をコールすると、端末が告げた。

「現在、この回線は利用できません。僚機設定が解除されています」


「そう、あんたも私を見捨てるのね……」

ネリーが寝泊まりしている安ホテル。
繁華街からやや離れた人通りの少ない裏路地にひっそりと建っている。

非常に狭くてサービスも悪いが、宿泊料さえちゃんと払っていれば、銃器・男・飼育用バイオ兵器etc……何を持ち込んでも詮索されないところが気に入っている。
が、シャワーのお湯がぬるいのだけはなんとかして欲しいと思っている。