ENo.0176　クロムノート・ウェルサキオン

「あなたは神を信じますか？」

開口一番。銀髪の女はそんなことをのたまった。
路地の奥にある築30年はあろうかというハイドラライダー寮の1つ。安さ以外に何の取り柄もなく、治安も悪いこの場所の、まして素行の良くない自分の部屋には今までただの一度たりとも来客がなかった。今日までは。
それが珍しく扉をノックされたものだから、一体誰なのかと興味を持ったクロムは表に出てみたら、これだ。
復讐鬼だのイタズラ小僧だの正義感に満ちた誰かだのを期待していたクロムからすれば、興醒めもいいところである。

「信じてねえし信じるつもりもねえし、助けてもらおうなんて思わねえ」

近所の評判や相手に対する気遣いが皆無なクロムは面倒な感情を隠しもせずに一方的に告げて開けたばかりの扉を引く。
が、女はそれを聞くと嬉しそうにこう続けた。

「奇遇ですね。私もなんですよ」

「…ああ？」

閉めかけた扉が閉じきる直前でぴたりと止まり、再びゆっくりと開く。
扉の隙間から顔を覗かせたクロムの顔は不信感と、薄暗い好奇に満ちていた。
女は笑みを僅かに深めながら、誘惑するような響きで言葉を続ける。

「存在は信じますが。神が誰かを助けてくれるとは、信じていません」

「神は見守るだけ――ってやつか？」

「いいえ」

女は首を横に振る。

「神はとうに我々を見放しているのです。我々がそれを信じず、必死で否定しているだけで」

たしなめるように、諭すように言葉を落とした。
クロムは表情一つ変えないままに続ける。

「で、何の用だ。神の議論なら応じる気はないぜ？」

「祈らせて頂きたいのです。死んだ貴方を哀れませて下さい。死んだ貴方を悼ませて下さい」

「…………」

クロムの表情が一変する。警戒するように目つきを細め、腰の拳銃に手を遣った。

「どこで、それを？」

「あなたの亡骸から」

「答えになってねえよ。俺の身体はここにあるだろう」

「ええ。魂も精神も貴方の手に在るままですが、貴方という人間は亡くなりました。
　…そうでしょう？」

女は気味の悪い笑みを一瞬だけ浮かべた。
女の衣服は飾り気のない黒一色の上下で、クロムは今更ながらそれが喪服の様だと感じた。
病的なまでに白い肌のせいかもしれない。アルビノというやつだろうか。

「祈りたけりゃ俺が死んでからにしろよ。その時は好きなだけやりゃいいさ」

「死んだでしょう、人間としてのあなたは」

「じゃあ今度死んだらにしろ。今はダメだ」

「…ダメですか」

「ダメだ」

普段ならどうでもいいと跳ね除ける些末事なのに、どうしてか決して受け入れられなかった。
嫌な予感がしたとか、殺意を感じたとか、そういうわけではない。
クロムは単純な不快感故に、その申し出を強く拒絶したのだった。

「残念。ではまたいずれ」

「生きてる間は…もう一度死ぬまでは来るなよ」

「あら。嫌われてしまいましたねえ」

にまり、と笑みを向けられてクロムはいつの間にか浮かんでいた眉間の皺をより深めさせた。

「帰れよ、もう。用はねえだろ」

「そうですね。……じゃあ、最後に一言だけ」

「あん？」

「あなた、いつからそんな顔をして笑うようになったか、覚えていますか？」

「…忘れたな」

言いようのない不安感に襲われ、答えながら記憶を掘り返そうとする。
ここに来る前。ハイドラライダーとしてここに訪れる前の事だ。昔からずっと傭兵を続けてきて、仲間の死を経験した。
光が徐々に失われていく瞳を覚えている。脚を失いながら家族に謝り続ける声を覚えている。ずっと荒々しかったのに最後の一瞬、静かに吐き出された吐息を覚えている。

「…覚えてねえ。最近の事だとは思うが」

「そうですか？　…そうですね。そのようです。ええ。そうでしょうとも」

貴方にとっては、とでも言いたげなその口調に苛立ちを覚え、クロムは無言で扉を閉めた。
そのまま無意識に鍵をかけようとする。つまみを捻るだけのシンプルな内鍵なのに、二度、三度と掴み損ねる。
そこでやっと、クロムは自分の手が震えている事に気付き、先程からあった不快感は恐怖だという事を理解した。

戦争！　戦争！　戦争だ！
喜べよ下種畜生ども。地獄のラッパが響いてきたぞ。
俺達が呼ばれている。
多くの血を流すため、多くの命を踏み潰すため、多くの死を広げるために。地獄の戦鬼が。

よう戦友！　アンタが求めるのは血か？　金か？　闘争か？　栄誉か？　はたまた正義なんて求めてるのか？
まあ、いいさ。どれだって。御大層な理由だろうがクソみたいな理由だろうが、やる事も同じなら逝く場所も同じなんだからよ。

どうあれ、ここにいるって事は俺と同じく戦争をより盛り上げたいってイカレ共だ。
死体と涙と恨みと鉄屑を空高く積み上げたいって、死んだら地獄行き間違いなしの畜生共だ。

同じ死体を漁る野良犬同士、せいぜい仲良く分け合っていこうぜ、なあ？

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格闘反応な命が葉っぱ勢のあなたに。
ユニオン活動は格闘×3　反応×2 → 格闘×2　反応×3の順で更新毎に変更していきます。

10人の状態で死亡者が出た場合、また2更新以上行動しない場合は参加許可を外す可能性があります。ご了承ください。

ユニオン購入は何かしら意見あるまでは機動力＋3%を予定しています。