ENo.0277　カラーガタ

空は晴れ渡っていた。
ここに来て初めて見る青空だった。

それはつまり、終わりの始まり。
それはつまり、今まで出会った人々の輪廻の始まり。

空は本当に青いものだったのだと、そう思って。

跳ね起きた。

びっしょり濡れた寝床のシーツ。ガーゼを幾重にも重ねた毛布。その上にかけた断熱材。

ここのところ、アンビエントユニットがどうだとか、霜の巨人だとかを広域放送が喚いている。
メルサリア、メフィルクライア、メルククラリス、ヒルコ、バルーナス、ルオシュ、ノラ。
誰を信用するもない。誰に信用されるもない。
マハカラが私を信じている。単なる事実として。

その広域放送からはいいろのおとこの声がした。羽化の為に選んだパーツと同じ霊色。

私に託されたものは何だ？
単純に、私に私を問わせる声。

世界の命運ではない。どうあろうとカラの時間運行はガンダルヴァの叩く太鼓と同じに進むだろう。
霊量の観測装置としてはこれは仕事を終えつつある。
霧に吸いこまれた霊量が残像として吐き出され、残像の分だけ霊量がここに留まっている。溜まっている。
こんなに死人が積み上がらなければ見えなかった差。
随分殺してつぶさに観察したが、残像にならなかった者には起こらない滞留。
霧を晴れさせなくてはならないわけではない。
維持すべきものが維持されていることだけわかっていればいい。
だから、本当に私は。本当に自由に。自分に理由を探していい。
例えば役に立つだけの意志を持ち得るのか。
生き残るだけの力を持ち得るのか。

「私は、私を知りたい」

時間と一体だった青年は、死を確定され生まれ落ちることに恐怖して蹲るだけの少女に変ってしまった。

弱く弱く、ただ弱い。

恐れを知って見つめるモノから殺すものに変質した。

それは生の本質。
死ぬという必定が生であり、死ぬことの原因は生まれたことに他ならない。

死なないために殺す。

無自覚に喰らう塞がれた目は開き、その目が捉えたモノを殺して食べる。
それは生物としての個の確立であり。

アートマンの細胞としての霊格の確立だ。

死出の径は、大丈夫、誰もが往くのだ。

誰や先我や先と旋律は歌うだろう。