ENo.0071　パアム・ライザ

次元潜行。所謂テレポート。

その単語は、眉唾物として記憶の片隅にあった。まさか、鉄の塊がこの世から消えるなど、あり得ない。

そう、「あり得ないということはありえない」。特に、この霧の世界では。

身を持って体験した不可思議な力、ミストエンジンという、これまでの常識外にある機構、重量を０に近づける、どころか質量としてそこにあるにも関わらず、無い物として扱われるパーツ群。
そう、見てきた筈だ、私は。不可思議な物を、常識外のあらゆるモノを。

しかし、今まで次元潜行を試さなかったのは、倉庫の空きとか、資金の余裕とか、色々と理由はあるが、一番の理由として浮かぶのは

……恐怖だ。

元の世界でも、こうした次元に関するオカルト地味た実験は行われて来たが、大抵は失敗し、その上悲惨な結果に終わった物も少なくない。
理解の外にある現象だ。だから、記憶の隅に追いやって、選択肢にもしてこなかった。


だが、今は。

世界は滅亡の岐路に立ち、霜が降り、霧の世界は終わりを告げようとしている。

マーケットはここぞとばかりに賑わい立ち、様々なパーツが手に入り、それを促進するが如く、支配人はハイドラライダーへの購入枠を拡大した。

今だ。今試すしか無い。

次元潜行と言うものが、どのようなものか、体感すれば、突破口となるかも知れない。あの日、何が起こってこの世界に飛ばされたのか、あるいは迷い込んだのか、未だに分からないが、これは重要な手がかりになるのではないかと、そういう期待が内から溢れてきた。


……この世界にも、大切なつながりはできた。だが、元の世界とのつながりも捨てきれないのが現実だ。
希望が見えた。見えてしまった。だからこそ、私は。


「どうした」

ガレージの中で、プレディと向き合う。機体の視覚素子と結合した私の中のプレディが、私を見下ろす。

「……ごめんなさい、プレディ」

貴方を、使っても、良いですか――――

そう言って、私は死出の旅へ出る。

「研究って何を研究するんだ……？」

「……貴方を利用した兵装とか」

「勘弁してくれ」