ENo.0649　アキラ・ハリアエトゥス

言いだしっぺを欠いた宴は終わった。
リー・インは別の戦場で目撃されたらしいが、詳しくは知らない。

敵の規模も予想されたレベルではなく……戦いにこそ勝ったが、趣旨としては成功とは言い難い。
つまり、こちらを駆逐したい勢力はまだ諦めていない可能性がある……が、ここまで来てしまった以上はもはや引き返せない。
当初の予定通りにこのまま要塞攻略へと向かい、そこで霜の巨人と対決する見込みだ。


霜の巨人、フロスト・ジャイアント。あるいはフィンブルヴェト・ユニットだったか。
何やらやたらと特殊装置を積んでいるのだとかいう目撃情報を聞いた。
圧倒的密度の攻撃、同系の特殊バイオ兵器の生成、捨て身の高火力……
こちらが蛇（ハイドラ）であるのなら、あちらは龍か。さもなくば蛇を眠らせる冬そのものを気取るのか。
どちらにせよ俺達がアレと戦うことは必至で、あちらが手加減してくれるなどという都合のいい話はあるまい。

先の戦闘では“パンディオン”にはかすり傷一つつかなかった。
しかし、ハイドラと言えど稼働させればあちこちが摩耗する。
そして今回、脚部の交換部品はないわけではないが万全のものはない。

……これはミスではない。意図して持ってこなかった。
以前、アレを脚部にするという新技術を耳にして以降やってみたかった機体構成。
“パンディオン”を、究極的に空を駆けるためのハイドラへと変貌させるプラン。


関節部などが若干摩耗した脚部を取り外す。そう、この脚をそっくりそのまま取り替える。
代わりに取り付けるのは飛行ユニットだ。これまで同系のパーツを何度も作ってきた[イカロス]シリーズ。そのナンバー6。
これを脚部として装備し、ランディングギアとして補助輪を取り付ける。
外した軽量逆関節脚はトラックに積んでおく。万一今回の戦闘でどこか壊れてもこれが保険になる。
胴体後部のパーツ構成は重ブースター2基と飛行ユニット1基の組み合わせに戻す。一度落とした速度を昔以上に出来るはずだ。
ターレットも腕部に差し替えるため旋回速度は低下するが……そこは、飛行ユニットが2基である自由度でカバーする。

これにより“パンディオン”は今までの限界速度を大幅に超え、機体そのものの重量も1/4程まで軽量化される。
装甲は薄くなるが回避能力の向上がそれを大きく上回るため、問題はないだろう。

……速度を多少落とせば、グリスター・ユニットと“パンディオン”そのものの虚無重量化も可能ではあった。
しかし、このパーツ構成自体がぶっつけ本番なのだ。過度な冒険は避けたいと思う。
この次の戦いがあるなら試してみるのもまあ、いいだろう。

ともあれこれで“パンディオン”の準備は整った。
後は越冬の覚悟を俺が決めるだけ。

「待ってろよ……イオノスフェア。そして、霜の巨人」

操縦棺の中でつぶやき、目をつむる。
仕掛けるまでまだ時間はある。仮眠が明けたら――その時こそ、決戦だ。

ユニオンに加入していたほうがいい、と聞いたアキラ・ハリアエトゥスが設立したユニオン。
正式に届け出は出しているがメンバーは一人であり、いわゆるペーパーユニオンである。

加入希望者は一応募集しているが予定はない。