ENo.0042　ジル・スチュアート

「……頭、いたい」

暗い自室で机に伏せるように倒れこみがら、小さく零す少女が居た。


心配だったセクション1のミッションは、無事に終わった。
しかし問題が起こらなかったわけではなかった。

センチネルの所有していた謎の兵器、「領域拡散精神遊離環」。

人の精神に働きかけ、破壊し、死に至らしめるそれは
仮に破壊されず耐え抜いたとしても、少女に大きな負荷を与えていた。


―なんとか生き延びられたね―


幼い女の子の声が聞こえる。
……ちょうど、自分より5歳若いくらいの子だろうか。


―でも、危なかったね。次は本当に死んじゃうかも―


くすくす、と笑う声が聞こえる。
少女は黙ったまま、ただ声を聞いていた。


―ねぇ……覚えてる？初めて撃墜されたときのこと―


忘れたことはない。
……あのときに、すべてが始まったと言ってもいいくらいに。


―怖かったよね……。どうする？このまま戦い続けてたら、また……―


怖かった。
本当に死んでしまうと思ったほどに。
それを知っているかのように、子供の声はくすくすと笑っている。


―今ならまだ、間に合うよ。戦うことをやめれば、あの人も、また死なずに済む―


声の言うとおり、私が戦うことをやめれば、あの人もきっと、戦うことをやめる。
それが間違いなく、私とあの人「だけ」が確実に生き残れる方法でもあるのも知っている。

……でも、私は


―ほかの人はどうでもいい。あの人が生きていれば、あなたが生きていれば、二人は幸せ。そうでしょう？―


私は、知っている。
みんな大切な何かを抱えていて、それのために戦っている。
そして5年前、独りだった私は……そんな人たちと出会って、助けられた。

だから――――


「ごめんなさい。私は……リーさんには生きていてほしい。でも、他の人も同じように、生きていてほしいから」


そう言って椅子から立ち上がり、ゆっくりと扉へと向かった。
扉を開け、自室から出る……その前に。
少しだけ、暗い自室へと振り返る。

「ありがとう。必ずまた……2人で、戻ってくるから」

誰もいない部屋へと笑顔で礼を述べて、後にした。
そのころにはもう、少女を襲っておいた頭痛も治まっていた。

5年前とあまり変わらない風景。
適度に整理もされており
WHのメンテナンスもしっかりと行われている。

……いつ、”そのとき”がきてもいいように。