ENo.0308　霧中ネネ

「だからぁ彼氏じゃないっていってんだろぉぉーー！」
ネネはッダーンと机に拳を叩きつけて頭を抱えこんでいた。

先日のライブ配信でバディを組むサクラバが映り込んだ件であれやこれやの大論争。その対応に追われる中でそんな愚痴をこぼすのだった。
万が一を考えてバックナンバーを削除したのが裏目に出て、火に油を注いだ形となってしまった。

決して多いというわけではないネネのチャンネル登録数ではあるが、ちょっとこう、一風変わったな人も多いため、誤解を解くのは熾烈を極めることとなった。
やれ誤魔化さなくてもいいとか、証拠を見せろとか、大丈夫俺は信じるとか、また尻見せてとか、とか、勝手気ままな解釈で様々な言葉と関係ない欲望を浴びせるウォッチャー達。

「も～～～～、それもこれも、あんなタイミング悪くあらわれたあいつが悪いんだ。今度文句言ってやる」
八つ当たりである。

ここは、つたないながらも築き上げてきた私の城だ、という認識がネネにはあった。
内心では馬鹿馬鹿しいと思いつつも、視聴してくれる彼らに失望されたいわけでもない。
誤解を解くにはひとつひとつ丁寧に説明していくことが必要になる。嘘はなるべくつかないように。

（…というか、別に僚機のパイロットだということはバレてもよくない？）

いいんだろうか、いいかな、いいよね。
いやちょっと待った。それで邪推するやつはするしな…顔写ったっけ？どうだっけ…

モニターの光が暗がりに浮かんでうんうんと頭を悩ませ、結局はライブ配信で対話をすることとなった。

「え～、だから、あの人は別にそんなんじゃなくて、スポンサー企業の人なので、プライバシーに配慮して？消しただけですよー」
「そうそう、機体の整備とか？手伝ってくれたりとかー、その人だけじゃないし、そもそもビジネスライクな付き合いで～」
「いやだから（笑）ない証拠はだせませーん、わかって？」
流れるコメントにできる限り答えていく。あぁなんでこんなことをしないといけないのか。

【じゃあその人って、ネネちゃんにとってどんな人なの？】
というコメントが目に留まる。

どんな人…？どんな人と言われると…僚機のパイロット……は置いといて
（生真面目で、融通が利かなくて、変なやつ…変で済むのか……？）
あの後のブリーフィングで顔を合わせたときには、やたらと（物理的に）押してきたり、髪が数ミリのびたとか、意味の分からないことを言っていた男のことを思い起こした。どんな人生を送ってきたら、あのような人間が出来上がるのか、全く想像だにできない、理解の範疇を超えている男。

ネネは、一瞬の逡巡を経て、「……宇宙人……？」というコメントを絞り出すのだった。