ENo.0398　“Neon”

　
「いっそエンジンみっつ積んでみない！？」
「却下」


力いっぱい提案すると、すげなく言い切られた。
えーっ、と抗議の声を上げるも、計算機に向かう同僚は涼しい顔だ。

「限界駆動してどかーんとぶっ放してみたーい！」
「それをやるなら、重量だのエネルギー関係だの脚部だの、全体的に見直しになるだろ。今からだと検討の時間が足りない」
「それはそうかもしれないけどー……」

むう、とふくれてはみるものの、まあ言っていることは理に適っている。適ってはいる、が。


「グランだって、パドにすっごいバカバカ言われてたのに……」
「…………、」

懇意の整備士の名を出せば、こほん、とわざとらしい咳払いが聞こえた。
どうやら痛いところを突いたらしい。

いちおう乗組員の一人として、アウラも企画書にはざっと目を通している。
今回のアセンは、とにかく機動を高めることに主眼を置いたものだ。
その代償として機体は軽く、耐久力には到底期待はできない。
一度でも当たれば落ちるだろう、といった具合だ。

そこを補うため、火器を見直しがてらついでに霊障防御を上げて、霊魂律動で補えないか──というコンセプト、らしいけれども。


「……これ、グランが“Neon”のこと速くしてみたかっただけでしょ……」
「…………」

思いっきり目が逸れる。
大変わかりやすい態度に、力いっぱい息をついた。
いつもとは完全に逆の構図だ。

「……まあいいけどー。あたしだって、やりたいことあったら口出すし」

却下、と口では言われたものの、理由は『時間が足りない』だったことだし。
これで問答無用に突っぱねられたなら、文句のふたつやみっつやよっつも出るところだけれども。


「軽量機は保ちたいのね。で、高機動ベース？」
「……そう。ゆくゆくは超加速を目指したい」
「ふーむ」

示された方針に小さく頷く。
顎に指を当てて、下から顔を覗き込み。

「でも、それだけじゃつまんないわよね？」
「……ふむ」

にっこりと、笑いかける。
返るのは、『嫌な予感がするな』と小さく端に書いてあるような顔つきだ。
薄くわかりにくい表情も、最近はだいぶ読めるようになってきた。


「今は連動攻撃よね？　これも悪くはないけど、せっかく操縦と射撃で担当が分かれてるのよ。もっと活躍の機会をいただきたいわ」
「………具体的には」
「射撃武器ふたつ。それで命中精度が落ちるようなら、また考慮が必要だと思うけど」

びし、指先を突きつけて。
BANG!と撃ち抜くポーズで、口の端を吊り上げる。


「どうせなら、お互い楽しむべきだと思うの。そうは思わなくって？」
「…………はー……」

また深々としたため息。

──それが否定ではないことが、今のアウラにはわかる。
ふふん、とご機嫌に勝利の笑みをこぼした。

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