ENo.0196　アマレット

（僚機のENo.193 インシオン の日記を先に読むとなんかいい感じかもしれない！）



　
　グレンに会えたら見せたかったものがある。

　ひとつめはこれ、なんか顔がすごい似てる感じがするもっちもちのクッション。
　散々むにむにしたせいでくたびれちゃったけど、それも含めて見て笑ってほしいなって。

　ふたつめはこれ、ジャンク屋の怪しげな映像メモリ入り箱から漁って買った、ちゃんと衣装を着たままえっちなことをするビデオ。
　なんで……脱ぐんだ！！！　とかよく言ってたグレンのことだから気に入るかなあって思って。

　みっつめはこれ、ぼくの愛機・新生『ステラシェーカー』。
　姿はまるっきり変わっちゃったけど、今もぼくの大事な手足なんだって自慢したくって。




　『ステラブレンダー』が残像機として稼働を続けている――
　その報せを受けた後、ぼくは何かの間違いじゃないかとか、運よくグレンだけが機体から放り出されてどっかで生き延びてたりするかもしれないだとか、色々なことを考えて、自分の部屋とハイドラの格納庫を何度もただ行ったり来たりしていた。
　ミーティングをする気分にもなれなかったし、インシオンさんには事情を伝えて、本当にただひたすら、同じことを繰り返して何日かを過ごした。
　何かしていないと息が止まってしまいそうだったから、ステラブレンダーの装甲を磨いて、ぴっかぴかにしたりした。

　真っ黒になった古布を捨てて手袋を脱いだとき、ふらついてしまって壁に頭をぶつけそうになった。
　そういえば寝てなかったしごはんも食べてない。
　パステルもスリープモードにしたままだったから、お手伝いロボのお手伝いすら受けてない。

「おやつ……」

　何か食べられそうなもの……って思って咄嗟に出てきたのがそれだったから、そのままふらっとピコピコに向かった。
　するとおばあちゃんがヘリメン（かわいくデフォルメされた戦闘ヘリが描いてあるおやつの麺）にお湯を注いだものを出してくれて。
　一気に啜ったら、ようやく頭の中がちょっと落ち着いてきて、いつもの席が空いてるなって気づいたんだ。
　だからぼくは一度自分のアジトに帰って、『ステラブレンダー』がどんな動きをする機体なのかを、できる限り思い出して打ち込んだ。





「インシオンさん」

　もう夜なのにいきなり押し掛けたぼくを、インシオンさんは嫌な顔ひとつしないで迎えてくれた。
　エレさんもすぐにあったかいお茶を出してくれて、膝とか肩とかにかける布までぶわーってしてくれた。何かと布を着せようとしてくれる、宿舎の掃除のおばちゃんを思い出すなあ。
　レイさんも、こないだの兄弟喧嘩の時とは打って変わって、落ち着いたお兄さん……って感じで、一対一の話をしに行くぼくを見送ってくれて。

「決着をつけにいきたいんだ。……グレンを、ちゃんと眠らせてやりたい。手を、貸してほしい」

　どうにか絞り出した結論を、インシオンさんはちょっと屈んで真っ向から聞いてくれた。
　そうだな、って言って、頭をぽんぽんしてくれた。

「勿論だ。俺たちにはその力がある。エレとレイも連れて来て構わないな？」

　うん、って答えて首を振った。
　残像機を捕らえるにしても――そう上手くいかなかった場合に破壊するとしても。
　『チェルノボーグ』と『ベルボーグ』、それにエレさんのふしぎな力でのアシストは頼もしい。

「作戦は明日立てるとして、今日はとにかく休め。……頼ってくれて良かった、今度は俺たちが力になる番だからな」

　その言葉が嬉しくって、また目がぶわーってしちゃって。
　一気に疲れが出てきちゃったからベッドを借りて、言われた通りちゃんと睡眠を取ることにした。
　眠りに落ちる寸前に、まぶたの裏で、虹色のきらきらが見えたような気がした。

無口なおばあちゃんがやってる駄菓子屋だよ～

品揃え豊富でどれもどこか懐かしい味！休憩テーブルつき！

駄菓子、やたら薬臭いって言われるけどそんなするかなあ？