ENo.0196　アマレット

（ENo.193 インシオン の日記のちょっと前に当たるやつです）



　

『相棒関係（バディ）を解消するなら、今の内だ』


そう言ったときのインシオンさんは、ぼくに背を向けていて、表情が伺えなかった。
……けど、苦しそうな、辛そうな声だったと思う。

インシオンさんが、即死のはずの怪我から自力で回復したあと。
その技術が欲しいって、軽い気持ちで言ってしまったぼくに、インシオンさんはたしなめるようにその副作用を教えてくれた。
驚異的な治癒力と引き換えの、中毒症状と身体の変化、狂暴化。……という内容、だったと思う。

「グレン、どうしたらいい……？」

クッションのグレン（すごい眠そうな顔が似てたから買っちゃった）を抱えて呟いた。
もちろん返事なんて帰ってこない。
少しぼうっとしていると、ベッドに投げ出した脚が目に入ったから、なんとなく両方取り外した。

『手足換装できるの羨ましい、自分も欲しい』だなんて誰かに言われたとしたら、ぼくはどんな顔をするだろう。
確かに機体と直結できるのは便利だけれど、そのためにぼくは取り返しのつかないものを失ったんだ。
”星喰い”との戦いが終われば繋ぎ直せるはずだったぼくの手足は、やつらの攻撃によって保管されていた区画ごと吹き飛んだ。

似たようなものかもって考えると、ひどいことを言ってしまったなあって気持ちが溢れてきて、また泣いちゃって……いつの間にか寝ていた。





でも、答えは意外なところから降ってきたりして。

「友達と喧嘩でもしたのかい」

いつものたまり場、駄菓子屋ピコピコ前のスペースでパイル棒ポタージュ味（ザ・駄菓子って感じのさくさくしたスナック）をヤケ食いしていたら、無口な駄菓子屋のおばあちゃんが珍しく話しかけてきた。

「うん、まあそんな感じ」

「ちゃあんと謝ったのかい？」

「ううん、まだ……子供じゃないんだし、そんな簡単に済まないよ」

「あたしから見りゃあ対して変わらんさ。それにね、人はみんな、背が伸びなくなったって心が伸び続けてるんだ。みんな子供みたいなもんだよ」

おまけだよ、って言って、おばあちゃんはチューブ入りのドリンクみたいなのをくれた。
これ、凍らせて真ん中でポキッてするやつだ。一人で食べるとなんか慌ただしくなるやつ。

「みんな子供、かー……」

そういえばぼくも小さい頃はよくミラと揉めたけど、なんだかんだで次の日にはまた元気に遊んでたっけ。

「……整備、しなくちゃ」

お菓子の残りを口に詰め込んで立ち上がった。できること、やりたいことはまだまだある。
怖がってる場合じゃないんだ。

無口なおばあちゃんがやってる駄菓子屋だよ～

品揃え豊富でどれもどこか懐かしい味！休憩テーブルつき！

駄菓子、やたら薬臭いって言われるけどそんなするかなあ？