ENo.0041　天ヶ瀬　澪

眼に写るのは、一面の青と、自分と同じ顔の女の子。
ただそれだけだった。
何もかもが冷え切って、何もかもが止まったかのような空間は、さながら異国の写真のように美しく見えた。

ここが人生最後の地でさえ無ければ、もっと素直に喜べたものだろうに。

そしてその失望は、目の前の『わたし』も感じているのだろう。
鼻へ口へ、否応無しに注ぎ込まれつつある水の淡白さが、ここが海では無いことを教えてくれる。
碧い瞳が見つめ合う。

ここは『わたしたち』の望む海ではないのだ。

静止した空間の中、『わたし』の唇が微かに動いた。
青に侵され霞みつつある瞳でも、『わたし』の言っていることは手に取るようにわかった。

「海で、また会おうね。」

伝えてくれた、たった一言。
それは、『わたしたち』の悲願だった。
胸の中にいくつもの感情が激しく巡りわたっていった。
怒り、悲しみ、憎しみ…
それらが身体を突き動かそうとした瞬間、限界を超えた意識はぷっつりと途切れてしまった。

そこから先は、覚えていない。
頷いたのか、言葉を返したのか。


とにかく確かなのは、もうひとりのわたし…天ヶ瀬 泪(あまがせ るい)とはそれっきり、未だ出逢えていないということだ。