ENo.0044　ロウシャ・ゼイルストゥラ

　
　共同格納庫の一角で、彼は無心でハイドラに水をかけていた。

　彼の背丈ではどれだけ腕を伸ばそうと、愛機の巨躯における脚部――それもその半分にも満たない程度の高さにまでしか水はかからない。それでもかまわないといった風に、ホースの先端を指で潰して水を撒く。本格的に洗いたければ本職の整備士にでも頼めばいいのだ。
　人で言えば足首から先にあたる部位は、どうしても石や土塊を噛みやすい。しかし戦場を駆け、跳ね回るのに重要な部分だ。丁寧にとは言わずとも、それなりの感謝を以て洗うことができればよかったのだが……彼は大抵、別のことを考えていた。

　流れ出す水の色。今日は土色であるということを確認して、安堵する。

　ときどき水は赤黒い色になる。その色が何を示すのかなどということは考えたくはなかったが――しかし目を逸らしたところで、まぎれもない事実である。
　それだけではない。すでに敵機を落とした数も50を超えた。それは無人だったかもしれない。バイオ兵器だったかもしれない。しかし、誰かが乗っていたかもしれない。

　無心で水をかける。時々跳ね返る水に目を固く瞑りながら、ひたすら。ひたすら。


　――引き返すことはできない。

　

何らかの理由によりハイドラに縛りつけられたライダーが集まる。掃き溜めとも言う。
　
一部メンバーの素行不良により世間からの評判は芳しくない。

音楽専念。