ENo.0122　ソシル=ナヅナ

《33週x日目》
　アンセトルドユニットと購入代金の送付、作成依頼のための資金送付、不用品の処分、ミストエンジンの作成等々……いつになく忙しかった1週間を終えた数日後の事。

「……あー、うん、もしもし？　依頼、受けてくれてありがとね。有効活用するわ」
「同じデバステイター使い同士、仲良くやりましょう？」
　そんな連絡と共に、複数のデータファイルが送られてきた。
　送り主は前回の依頼主───リイア・イオス＝エイジ。

　ファイルの中身は俺が頭を悩ませていた"霊霧殲滅"を軸とした破壊兵器のアセンブル案───それも、構成に唯一自由のある1枠を組み替えた場合の考察まで丁寧に付け加えられたモノだった。えらい熱の入りようである。
　……机上の空論に過ぎなかったものが現実になるとわかり興奮しているマニアを見ているような気分だ。(直喩)

　有り難い事には違いないが、ここまでして貰えるような事を何かしただろうか？という疑問の答えが思い浮かばず、仲介役のハイドラ乗りに問い合わせてみる事にする。
　インセイン・リー、あるいはリー・インを名乗る"不確かな男"。
　……ラピアもそうだが、公私の切り分けが極端な奴とばかり交流が増えていくのはなんなんだろうか。類友ってヤツか。

「俺から何か言った覚えはないんだが、あんたの仕業か？」
《ああ、あれはそういうのを得意としているからな。命がけで酔狂をやらせたら大隊でも三指に入るだろう》
　くつ、と小さく笑みを漏らしたのは俺かリーか、はたまた両者か。
「はて、そういう事を自分から言う御仁では無いと思っていたが……」
《あんたの戦闘記録からそういう要求を感じたし、リイアは依頼に対し対価の支払が出来るよう整えろと要請した。ニーズ同士を引き合わせただけさ》
　依頼先から完成品と資金が送られてきて何も思わんほうが稀だろう、と。
　そういう事か、と思わず溜息が洩れる。
《……本当に疑問に思っていたのか》
　呆れと困惑を僅かに含む溜息と共に通信は途切れた。

　他人との交流機会が減りすぎると人間性が崩れていくのは判っているが、礼節という感情を忘れていたとは……。
　この身は人の形にして人に非ず、獣にも非ず。

　誰も肯定できない。
　誰も否定できない。
　俺は───私は───ほんとうに「───」なのだろうか？

--------------------------------------------------------------------------------------

《33週n日目》

　あと数週でコロッセオが閉会してしまうという報を聞き、アセンのお披露目も兼ねて参加してみる事にした。
　……したのはいいが、知った名が敵にばかり偏っているのはなんなんだ。
　こちとら対人は初めてなんだぞぅ。
「ラピア。リイア。有明。玲狐───」
　と。
　対戦表に見覚えのある名を見付け、思考が止まった。

「ラヴィーネ……！？」

　金髪の"姉"の顔が脳裏を過る。
　マニアックな戦法の開拓者であり、かつての塔ではいつからか共に探索を続けていたあの人、なのだろうか？
　別人の可能性もあるが、ハイドラ大隊登録者データは───

　───本人じゃねーか！！

「馬鹿な……どういう事だ……」
　あの人はコルドが向かった世界──フォリウムでギャグ時空に巻き込まれていると聞いていたが……
　そっちがギャグ時空存在だからこっちに大元がいる可能性も否定はできん、のだろうか？
　ギャグ時空が"そういうもの"だというのは判っていても認識が追い付かない。
「うわー……マジか……マジかぁ……」
　なんだろう。こう、すごく本能的に顔を合わせたくない。
　しかもあの人死亡許容でコロッセオランカーじゃん。マジかよ。オイオイオイ死んだわ俺。

『当社について説明致します』
『ミナヅキ･インダストリはパーツ製造を目的としたユニオンです』
『扱う商品は主に火炎放射機、パイル･ダガー･ブレード類の近接兵器、FCSやジェネレータ等の内装部品となります』
『参加に特にこれといった条件はありません。もし上記パーツを1つ製造しているのであれば十二分でしょう』
『強いて言うのであれば、培養兵器･領域殲滅兵器の使用者を特に募集しております』
『当社からの説明は以上になります』
『貴方からの良き返答に期待しています』