ENo.0685　かもめの亡霊 モーヴェ

…………

ギルデンロウと僚機というだけで時間が永遠だったような30分くらいだったような。

結局オレは、あーいう場をもってしてもギルデンロウに勝てなかったし、『残像の』メーヴェにも勝てなかったみてえだ。
誰も落ちなかった。……誰にも勝てなかった。
でも今日に来るまではすごく面白かった。一人じゃ思いつかないことを、たくさん出来たんだ。


それでも未練を言うんなら……
なあメーヴェ。いつか勝てるなんて、考えが甘いのか？
ギルデンロウはともかく、数秒の差で『弟』という立ち位置にいるだけで、こんなに遠いもんか？

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『モーヴェ、急げよ』

うたたね(幽霊も寝床はいらないけどうたたねはする)してたってのに、そんな声で起こされる。

夢と現実がごっちゃになった瞬間に聞こえたから、
たぶん夢だけど。
でっかい化物を、オレがデバステイターで倒す夢も見た。そのあと、霧が晴れて、オレは青い空を久しぶりに見た。

あれはきっと……あの声もきっと……

そうだった。霜の巨人が来るまでにメーヴェを迎えに行かなきゃ。

(オレが使うことに意味は無いが、)がらくたの中から見つけた温度計は、
ここ数日零下を差しっぱなしだった。
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かつての僚機。ひらくもが言っていたように、煙を小さな穴から流し込んでみる。

料理しないから手頃な火は無いしタバコは論外だしかといって噴霧器も無ぇ。のでランページ・ユニットの霧を流し込む。

莫大な量の霧が操縦棺の中に満ちて、別の場所から零れる。


あとは、とてもかんたんだった。

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*こん、こん*

殴りつけるんじゃなくて、穴から穴を広げてこじ開けていく。

*こん、こん*

やさしく、卵を割るような。

*こん、こつ……*

元より、メーヴェが落ちた時から、こうしていれば良かったのに。

*こんこん*

メーヴェが(オレの頭ん中で)言う通り。
オレは弱虫のひよっこだったってワケかよ。

*がんっ*

これからはそうは言わせねえからな。

*……こん、こん*

ライダーとして登録出来るほど動けるようになるまで1週間、
日記を書けずにいたのは2週間。

*ぎぃ*

……最後の現実を見るのに、77日もかけたけど。

霧が操縦棺の中から漂って、外の霧と混ざる。


やっぱりメーヴェは、

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羽と骨と蝋が凍っていた。

もしもオレに胃があったら……これ以上は考えないようにしよう。


もしかしてと思って棺の中をひたすら探ってみたけれど、
気の利いた遺書とかダイイングメッセージなんてものは一つも見当たらなかった。

そりゃ、そうだよな。突然だったから。望みすぎだ。

白いワンピースみたいな水兵服はどろどろになってたけど、洗えばまだ、オレが着るぶんには悪くないか。

金のピアスも、最期まで付けてたんだ。
生きてた時に二人で買って付けてたやつ。
オレが死んだ時も何故か、砂浜に打ち上げられていたらしい。

このパーツも懐かしいな。柄でもないのにFCSなんか作って……


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棺の中身を隅まで探し尽くして、使えるジャンクと処分するものと個人的に持っておきたいものをまとめるのに数日使った。

「お、終わった…棺の中って案外モノが多いんだな」

一息ついた瞬間。
ふとメーヴェは死んだんだと、思った。思ってしまった。

「……っ」

熱くもなんともないけれど、涙がこみ上げるのを感じる。

「……メーヴェ、」

なんて言えばいいんだ、こんなの。怒ってるわけでも悔しいわけでもないし、悲しいだけじゃ説明のつかない。
「オレより先に逝ってしまった」でも無い。
元の世界で先に死んだのはオレだ。死者が死者を思い起こしているなんて変な話じゃねえか。

オレが死んだ時はメーヴェのそばに行けたのに。
残像のメーヴェは、残像のオレも連れているから来てくれないんだろうか。
でもそれで、残像のメーヴェは幸せかもしれない。


「……オレは寂しいけどな、メーヴェ」


……ダメだ。まるでダメだ。
実体はありもしないはずの涙腺がいうことを聞かなくなってきた。


「……う」


人に聞かれていたら絶対に煩い。でも泣く以外にどうしようも無い。

涙はこぼれても水にはならず、
霞のような何かになって地面に落ちる前に次々と消えていく。


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(かもめのなき声が、霧笛のリズムを掻き消すように。
わんわんと雪原の向こうで響いていた)

ユニオン名：ジャンク・パックス
　（勇ましい口ぶりの、低く加工された声がラジオや通信機から響いている）
　（どうやら、プロパガンダ……のようなユニオン参加の呼びかけだ）

　《集え同胞！　ジャンクの大地に産まれ、スクラップを食む獣たちよ！》
　《今こそ『群れ（パック）』を為し、敵を食い荒らす時だ！》


概要：
　いわゆる傭兵たちの為のユニオンです。
　目的の一つは「他のハイドラをぶっ壊してスクラップにして、スクラップを売り払ってお金持ちになろう！」
　そしてもう一つは「ジャンクみたいな機体で気取った金持ちたちを叩きのめしてのし上がろう！」です。
　雰囲気としては共産主義みたいな感じです。でもやってることはバリバリ資本主義。

　設立者がジャンク屋なのもあって、ジャンク品や廉価なパーツ、泥、ツギハギ、硝煙、戦場……
　その他モロモロに縁深い人にオススメです。もちろん縁がない人もオールオッケー。