ENo.0015　Rix.C

振り向くと視線の主は隠れてしまったが、位置や方向からして、相手は同業者だろう。あちら側にもまた別の会場があったはずだ。となると――『彼』の可能性は否定できない。
「何かご用ですか？」
『彼』でないことと『彼』であることを同じくらいに祈りながら、営業で鍛えた言葉を隠れ場所に向ける。
物陰から出てきたのは、髪の長い女だった。曰く、相方を探すための品定めを行っていたらしい。食事ついでに軽い話を重ねたのち、ひとまずの交渉は成立した。

僚機の心配がなくなった後、店舗跡地へ立ち寄り戦場での勤務先を探す旨を全域通達するとさらにハイドラとして登録した機械を隠し、そのまま何事もなかったように帰宅した。水樹は何も詮索せずに出迎えてくれたが、果たして気付いているのかいないのか。

それから毎週のように、「店の整理をしてくる」と口実を残して私は再び戦場へと向かう。もちろんだましていることに罪悪感がないわけではないが、これが私の求めていた感覚でもあった。
平穏な日常を求めている彼には申し訳ないのだが、ここにはそれだけでは得られない「生きている」実感がある。
これが問題なのはわかっている。強制せねばならない問題だということも。だが、この歪な思考は過去の業務経験が彫ったものでもあるのだ。
「水樹……許してくれ」
出撃の準備をしながら、誰にも聞こえないほど小さく私は呟いた。