ENo.0146　フレースヴェルカ

霧が深くても、ただ一瞬の目の前さえ見えればいい。

見落とす前に身体を動かし、ただ薙ぎ払いに走る。

生も死も隣り合わせの領域世界。

ねぇ。私はそこに居ますか。


今日は座る場所が違った。いつもの、整備場は、なんとなく気分じゃ無かった。あまり整備する必要も無さそうだったから、それでいいかなと思って。だから、あてがわれた場所にいた。

簡単に言えば、瓦礫の山。それが、その座標を呼称する一番わかりやすい言葉だった。そうでなくても、まっとうなものが転がっていないような。使い古しの物が転がっているだけのような。そんな場所で、いつも通り見上げていた。

不思議と、落ちつけた。少なくとも、慌ただしい整備場よりは、間違いなく落ちつけた。いらない物が次々と積まれる場所なのに、そこにいらない物は何も無い。そんな、不思議な感覚があったから。

実際、別に悪くはなかったし。ご飯でるし。寝る場所もあるし。雨風も防げるし。居るのはすごい個性いっぱいだったけど。あれならわたしは多分無個性。


「何を思っているのかよくわかりませんけど、無個性なら『サンダーガール』などとは言われないかと」
「わたしも言われたのすごい驚いたんだけど」


わたしはこのハイドラに名前を付ける、という事は……あまり乗り気では無かった。最初は。なにせ、最初はそもそも誰かが用意しただけのハイドラだったから。

それでも彼女は、『作れ』と言った。生きるために、生きて帰るために、それ以外には何の理由も要らない、わかりやすい、理由づけ。何よりも優先されるべきはっきりとした形の理由として。


「でも、わたしは本当にそれほどの実力はないつもりなんだけど」
「謙遜は人を殺す。わかりやすい言葉ですが、今の貴方のスコアを見て首を横に振る人は居ないと思いますよ」
「途中で制御できてないんだって本当に」


実際。死にもの狂いだった。どうやって攻撃してたかもあまり覚えていない。というより実感がわいていない、というのが本音だった。そもそもどういう武装かがわからない。だというのにそれをいくつも積んでいる。もはやブラックボックスの塊のようなそれ。

……正気か、わたし。冷静になってつっこむけど。


「……なんだろうね。わたし。実は考える力が足りてないのかな」
「勉強しますか。未知の武装からさんすうどりるまで、何でも調達しますよ」
「えんりょします」


空は、空の色をしていなかった。

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「メシと寝床？必要なら出すけどオレあんま料理上手くねえよ」