ENo.0071　アキラ・ハリアエトゥス

自分でも意味がわからないのだが。猫を愛でている内に、どういうわけか俺はコロッセオへ出場登録されていた。
加えて身に覚えのない僚機登録。登録番号0307、登録名「i」。

「……なんだこの僚機。ろくにデータがないぞ」

データベースには性別、年齢、外見、経歴。それらの情報が一切なかった。
戦闘記録は参照できたが、ここから分かるのはこのライダーがかなりのやり手、戦闘力の持ち主だということくらいだ。
前回もコロッセオに参加していたらしく、ジュネリア・ハーヴェストとも交戦している。
……というより、このライダーと組んでジュネリアの居るチームと戦うことになる。
敵同士として会うことがなければいいと思っていたが、まさかこんな形で相見えることになるとは。
先日挨拶を交わしただけに気まずいものがあるが……まあ、コロッセオのライダーならこんなものだろう。


問題はジュネリア・ハーヴェストが敵陣に居ることではなかった。
俺と組む予定になっている未知の僚機、それとコロッセオ対策だ。
どうにもこの僚機は超重タイプの多脚機らしい。焼夷機関砲Bなんて俺に言わせれば重すぎる兵装まで使っている。

「火力はあちらに任せて揺動に出るか……いや、コロッセオだぞ。迂闊に前に出たらすぐ堕とされる」

通常の戦場なら撹乱しつつ小粒な敵を始末し、大物は味方機に任せるという手でいいのだが……コロッセオではそれは無理だ。
同数かつ同質の敵が並ぶ以上はダメージレースで競り勝たなくては負ける。

……負けてもいい戦場だと言えばここ最近の戦場よりよほど平和だ。
むしろあまり気負わず、緩いくらいの気持ちで挑んでしまってもいいのかもしれない。


そう思えば後は気楽に飛びたいままに飛ぶだけだ。
多少貧乏生活にはなるかもしれないが、それで困るような暮らしでもない。
再々調整し直した“パンディオン”の試運転くらいのつもりで挑ませてもらうことにする。



…………ところで、やたらとすり寄ってくる猫を撫でながらこの日記を書いているのだが、こんなところになぜ猫が？
『サルガッソー』にいるということは誰かが連れ込んだのではないかと思うのだが、飼い主がいる風ではない。
野良のような気ままさで、しかしハイドラ臭いだろう俺の体臭も特に気にせず──


──ここまで考えて、妙な考えが頭をよぎる。
『猫を愛でている内に、どういうわけか俺はコロッセオへ出場登録されていた。』
この間の戦闘で死者が大勢でたから管理システムに不具合が出たのかとも思ったが、思えば死者が出るのは珍しくもない。
つまり誰かが登録しなければありえない。
『データベースには性別、年齢、外見、経歴。それらの情報が一切なかった。』
人間らしいパーソナルがなかったとしたら？
書かないんじゃなく、書きようがなかったら？
つまりそれは、この猫こそ────


「……アホらしい。疲れてるな」

そんなわけがあるはずはない。分かってる、この毛並みのいい猫の黒い艶に引き込まれてしまっただけだ。
だってハイドラの操縦棺は猫が動かせるようにはできてないんだ。
もしそんな事があるのなら……多分、幽霊が戦場で戦っているくらいのありえないオカルト話だろう。

廃棄された様々なものが集まり、
それを目当てに人々が集まり、
集まるために様々な建物が増えていった地区。
ハイドラパーツの素材になりそうな質の資材も転がっているようだ。







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