ENo.0146　フレースヴェルカ

空高く舞う翼を持つ人は、さらに空を望む。

どこまでも、どこまでも高く。果て無き空を。

けれども作り物の翼は。

墜ちる。



目が覚めた時は、整備場だった。すでに交戦が終わっていた。
慌ただしく走り回る人であふれていた。その一角に、座らされていた。
背中には壁の冷たい感触、正面には動き回る熱気。
けれど、響き渡るのは怒号のような声ばかりだった。
周りを少し見渡したら、その理由はすぐにわかった。

――残骸ばかりが転がっていた。

ボロボロにされたハイドラの山を見ればすぐにわかる。
スクラップやジャンクになっているようなものだった。
一歩間違えば、そうなっていた可能性があった。
ここで目を覚ますことすら許されなかった可能性があった。

見上げれば、破損はしているものの。
比較的綺麗な状態の、わたしのハイドラがそこにあった。


「……ううん」


途中までは覚えている。
周りが順番に落ちていったところも。
彼が落ちかけていたのも。
それを見て焦ったわたしが避け損ねたところも。
そこまでは、覚えている。

――そこから先が、何も思いだせない。

何があったの。あの瞬間から、何が起きたの。


「おはようございます」


彼女がそこに居た。


「派手にやられましたね。全部見てましたけど」
「……全部。――本当に全部見てたの」
「はい。全部見てました。そう言う事もあるでしょう。残像領域ですから」


何一つ、彼女は非難らしいことを言わなかった。


「油断をしてもしなくても、そうなる事がある。そういう場所ですから、ここ。五年前もそんな感じでしたから、良くやったほうなのではないですかね」
「……よくわかんない」
「そうですか。まぁ、そのうちわかると思いますよ」


わからないままに、結論は先延ばしになった気がした。
どうにも、腑に落ちない点が残っている。
なんなんだろう。疑問ばかりが増えていく。この戦場の事だけで。


「ねぇ」
「なんでしょう」
「……あなたはどこで見てたの」
「ずっと傍で見てましたよ」


嘘にしか聞こえなかった。

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「メシと寝床？必要なら出すけどオレあんま料理上手くねえよ」