ENo.0130　かもめの亡霊『モーヴェ』

…そうだ。これ＊＊は僕たち兄＊なん＊から。＊の＊＊も…名前＊呼＊よ。＊＊＊もタダであ____
な、兄弟って、そういうものだろう、『』？

 ✸ ✹ ✺ ✻ ✼ ✽ ✾ ✿ ❀ ❁

「なっ……」

水が管を通る、ごうごうと心地よい音で目が覚めた。
何か夢を見てた、けど忘れた。今忘れた。

「ここは…クソ、出撃してそのまんまか…」

操縦棺の中、モニターには【OVERLOAD】の文字がチラチラ瞬く。次の操作をずっと待ちわびてそわそわしている女の子のようだった。（女の子が本当にそんなことすんのかは知らねえ）

「悪りぃなサラミス。ちょっと休め」

全てのエンジンを切ると、目を閉じるようにモニターの光は消えた。

「オレは…」

高く飛んで、うまいことやってたと思ったんだけど…
急に濃い霧が窓を、サブカメラを、視界を全て満たしたその瞬間に、強い衝撃とアラートが羽毛の端を震わせるような気がした。飛行ユニットの動力部がやられて船体が大きく傾く。高度が落ちていく…
またきょうだいに負けるのか？そんな思いがオレを逸らせて、また叫んだ。

「こんな、ところで…！」
「上がれ、上がれよサラミス…！」

「貴女《オマエ》なら飛べるはずなんだよぉっ……！！」


そっからの記憶がない。無いはずの心臓が砕けるかと思った、それっきりだ。

ハイドラが落ちていくのを目の前にして、無力感とか怒りとか憤りとか恐怖とかメーヴェとか兄弟とかあれとかこれとかそれとかいっぱいになった。

「だからってよ」
「オレが幽霊でよかったな、オレ」

そうでなければ、今頃。

「死んでたかもしれないんだぜ。」

はー、と。なんつーかもうため息しか出ない。
情けないを極めたようなオレの行動だったけど、
報酬は前より少し増えていた。

それでも、まだ…

壊れてしまった、もはや時代遅れ、彼氏にフラれた腹いせ。
あれこれの理由で積もったジャンク品の山の中。
打ち捨てられたようで、実はとても手入れの行き届いた三段櫂船型ハイドラが一機。
ある一人の幽霊が、そこで暮らしているのだ。


「メシと寝床？必要なら出すけどオレあんま料理上手くねえよ」