ENo.0030　ガブリエラ・ストークス

　健闘はした。
　載せ替えたパーツはすべて有効に働いた。強化した装甲、誘発装置。エネルギーを限界まで切り詰めるため、古い操縦棺を乗せた。棺にして揺り籠の、簡易操縦棺だ。

　しかしそれでも圧倒的火力、数の暴力には敵わない。ソネルは一足先に落ちた。彼の新しく導入したミサイルは見事な戦果をあげており、彼もまた善戦した。矢継ぎ早に送り込まれる弾丸は確かに敵を砕いた。
　それでも戦闘ヘリの機関砲は無数の線として戦場を横切り、十字砲火はまるで網のような幾何模様を作り上げ、装甲を削る。先に落ちたのはソネルだ。ステートがオーバーロードへと切り替わった。

「こちらガブリエラ。被害が大きい、離脱する」

　限界だ。そう判断して私は攻撃を中止するものの、嵐から抜け出すことは叶わない。
　致命的な一撃を主幹に受け、給電を失った操縦棺は停電する。
　あらゆるアラームランプも消え、機体越しに聞こえてくる炸裂音と、墜落に伴う重力加速度に支配される。

「これで終わり、か……」

　そうつぶやいた途端、アラームランプ一つが点灯する。　

　 * OVERLOAD *

　次いで、操縦棺への給電が復旧し、外部カメラ、モニタも元通りになる。姿勢制御が働き、元の態勢へと戻る。――私の操縦を介さぬまま。
　操縦系はロックされ、一切の表示はNO DATAだった。
　マシン・オーバーロード。虚無システムと呼ばれる、特定状態のハイドラがとるそれは、その言葉のとおり虚無そのものだった。動くはずのない物が、動かす者もないままに動く。無が無を動かし、しかしそれは確かにある。

ソネルの「アワーオブウルフ」は変わらず弾丸を撃ち込み続ける。
「ホルン・パラドクス」は「私」を介在せずに駆動する。

　入力を必要とせず、フィードバックもなく、ただモニタからそれを眺めていた。

　ウォーハイドラは、ハイドラライダーなしに動く。

「私は、ここにーー」

　言葉を紡ぐ間もなく、私は意識が薄れ行くのを感じた。