ENo.0308　霧中ネネ

バディのリョウゴ・サクラバから出向の理由を聞かされた後、部屋に帰ったネネはしばらくベッドに突っ伏していた。


およそ自分にはわからない、軍人としての矜持やら命令体系やらもさることながら、それを唯々諾々と、命令から処分までを掛け値なしで受け入れるサクラバという男。

いくらか交流の日々を過ごしたことで、うすぼんやりながらも人となりが理解できてきたつもりでいた。いや、実際その状況を想像すれば、彼ならそういう行動を撮るであろうことは容易に分かる。
が、想像通りだからといって納得ができる話ではないし、何より、命令で撃てと言われて撃った、その行動が咎められるべきは命令を発した側であるべきである。
とにかくそのおかしな理屈によって今私が悶々とする羽目になっているのだから、損害賠償なりなんなり請求してやりたいぐらいだ。
どこの軍かは知らないが。

ふと、それならばサクラバを証人とする告発動画でもネットでばら撒いてやったらどうだろうか。
霧にまつわる戦争の最中でネットワークではプロパガンダやデマ紛いの動画が消えては増え、増えては消えているし、ジャーナリスト気取りのいけ好かない配信もどうやら人気があるらしい。
軍部の闇を暴く美人社会派配信者。なかなかいいじゃないか。

…なんて考えた。思考があさってに向かっている証拠だ。
きっとあの男は自らを処分した組織であっても、所属に弓を引くことはないだろう。
きっと私からのお願いでは、唯々諾々とは答えてくれないだろうな。馬鹿なことはやめろ、といわれそうだ。
貧乏くじを引かされた相手の言うことは聞く癖に、きっとそうだろう。

「ムカつく」
ぼそりとつぶやいた言葉はマットレスに吸い込まれ、叩いた握り拳がボスンと音を立てた。