ENo.0117　ワジオン・ブラン

　
暗い。

目が覚めた瞬間、そう思った。

居住区の自室には窓がない。
防犯上の意味合いと、設計的な問題だ。

窓がないから、何時になっても部屋に日は差さない。
だから照明は自動調整にしてある。

『生体リズムを出来るだけ乱さないように』というユージンの命令によって、時間に合わせて調光を行うようになっていた。
（これは艦隊のような宇宙空間で長期任務を行う船にも標準装備されているシステムだ）


そして今は、朝日が差していてもおかしくない時間帯だ。
だから、うっすらと、天井の照明が灯っている。

灯っているのに。


なんで、こんなに暗いんだろう。





体を起こす。
頭が重い気がする。
動きの鈍い左足が煩わしい。

今日は出撃に向けての最終確認と、依頼しているエンジンの件での連絡しなければいけないあてが一つある。
それから、エンサイクロペディア・フラグメントで得られた情報の精査と、雪華雪香に乗せる新しいレーダーの調整。

シーツを剥いで、起き上がる。
ベッドに腰をかけたまま、膝に肘をついて、組んだ手に額を預けて目を閉じる。

最近、眠りが浅い。　
寝入っても短時間で目が醒める。
何度も覚醒するせいで睡眠が足りてないことは、分かっている。

自分がおかしいことくらい、分かっている。

嫌というほど分かっている。



ゆっくりと目を開く。
照明は確かに灯っている。



灯っているのに。




なんで、こんなに暗いんだろう。

　
　

ワジオンが『雪華雪香』を格納しているガレージ。
白髪で背の高い男と金髪で小柄な男が、何やら話し合いながら機体の調整をしているようだ。

僚機『バーントイエロー』とガレージを共有しており、それぞれの領域を簡単にパーテーションで区切って使用している。
そのため、僚機のパイロットであるアンドロイドの青年とオペレーターであるサイボーグの青年の姿も垣間見える。　

広めで明るく機能的な設え。それぞれの居住区画もある。