ENo.0303　生体電池『下村瘡子E』

未確認機を見たのだとニュースが言う。
どこに？　わたしたちのあちらこちらの部分があわだつように疑問する。あの戦争以来あらわれることのなかった未確認機が？　どこに？
エウリプテリダ、レッドドラゴン、コロッソス、ブラック・サンブーカ、アリューシャントレンチ、オルゴイコルコイ、ミトラ……ラジオでばかり知っていた戦場を歩いていた機体たち。わたしたちの間に合わなかったおそるべき敵機。
遺跡の中に彼らはいるのだとニュースが言う。けれどなんのために？　この遺跡を守るために？　それとも彼らもまた何かを追って？
わたしたちの受信装置はひどく不安定で、どこに未確認機たちがいるのかを聞き取れない。わたしたちは培養液のなかに引き延ばされている。霧のなかを歩くように、意識はかすんだ液体のなかを漂い続けている。……

生体電池『下村瘡子E』の納められた箱、『三〇三号病室』は出撃しない時、個人のガレージで整備されている。

コロッセオ・レギュレータ社にスポンサードされたガレージは清潔で明るい。

生体電池『下村瘡子E』には二名の整備スタッフがつき、健康状態や電力状態をモニタリングする。

生体電池『下村瘡子E』の整備費を運用する事業主体として、下村によるこの個人ユニオンは運営されている。