ENo.0440　ヴィラカティ

ヴィラカティは奔放な娘であり、奔放な息子だった。
生まれた時から、世界の異変を知っていた。
だから何も恐れる事は無かった。
土を汚されようと、故郷を燃やされようと、種族を殺されようと、
怒りを感じることは無かった。

その兆候はとても分かりやすい原始的欲求だった。
セクション1、ハイドラキャンプ『サルガッソ』。
北部の歓楽街で一晩を買った。

「…本当に変わるのねぇ」

その女は唇から霧タバコを離そうとせず、
アレの最中も、シャワーを浴びている最中も霧を吹かしていた。

「そうよ」

窓から雑多な街を眺めながら、答えるのはヴィラカティの背中だ。
女は、ヴィラカティに声を掛けられた時は話半分のつもりで聞いていた。
十分な金を渡されれば文句も無かった。
そうしてシャワー室から出れば、
先まで彼女を抱いていたヴィラカティの言った通りになっていた。
その背中は――男の体だった。

「口調は変えないの？」
「この話し方しか知らないわ」
「ふぅん……」

ただそれだけ話して、女とヴィラカティは別れた。

キャンプ中に響き渡るアラート。
召集だ。

動き出した遺跡
デバステイター・センチネルの通信
コロッセオのシルクという女のことは気掛かりだったが……
近くの通信機を見つけ、ライセンス番号と召集に応じるシグナルを送信する。

「ねぇ、デバステイター」
「聞こえてる」
ヴィラカティはいつかのように、送話器に語りかけていた。

「もう止まらないわ」
「わたしは戦うのを止めない」
「ねぇ、デバステイター」
「あなたはどうするの………」

ヴィラカティは奔放な娘であり、奔放な息子だった。
生まれた時から、世界の異変を知っていた。
だから何も恐れる事は無かった。
怒りを感じることも無かった。