ENo.0588　アユー・ドルイド

パーツを作る手を休め、ふと外を見る。
ここ数日は一段と霧が濃くて、次回も濃い霧の中、戦うことになりそうだったのを思い出した。
「私はいいけど…むしろちょっと楽だけど」
索敵とバイオ兵器に頼った攻撃をしている以上はね、と苦笑して、手元の金属を見やる。
…旋回性能に特化した中タンク。自分が使うためでは、なかった。

自分が案外そういった物を組み立てるのに向いているのかもしれないと、気付いたのは最近のこと。
マーケットで買うより自分で組んだ方が、求めている性能に近い事がいくつかあって。
それ以来、誰かのものや自分のものを、いくつか組んでみたりはしているのだけど……

「てへへ、やっぱネーミングセンスかなぁ」
tamagoから始まり、onigiri、kabotya、edamame。
マーケットに並ぶカッコイイ名前を考えるだけの知識が、私にはなかった。
…ので、適当につけている。多分買った人がなんか考えてくれる…と思う。
この前のonigiriなんかいろんな人に買ってもらえて、それは凄く嬉しかったのだけど、
「onigiriです」と言った時の相手の反応は、それはもう様々で、恥ずかしいやら、なんやら。
ふっと吹き出して肩を叩いてくれた人。唖然とした顔で見つめる人。無反応な人。
もっとカッコイイ名前なんか考えてみたいけど、流石にそれまで僚機に教えて教えてというわけにもいかず、
パーツを見るためというか、パーツ名を見るためにマーケットへ行くことが多くなった。

…結果としてこのタンク、今に「onegi」と命名されそうになっているので、成果は駄目みたいだが。
戦場での戦果はあげられても、こっちはダメダメらしい。しかもちょっとonigiriと被っている。不合格。
…散ってしまった思考では、作業も上手く進まない。一度本格的に手を止めて、近くの金属板に腰かける。

――――コロッセオ。
あの日の私に、尋常じゃない衝撃を与えた場所。
次の出撃の、更に次。予定に変更がなければ、…もう一度そこへ行く。
思い出しただけで肩に力が入って、わざと長く息を吐きだした。
「…そう何度も、上手くはいかない。…大丈夫、わかってる」
大丈夫。大丈夫。それは語りかける形をとりながら、自己暗示の様でもあった。
「どこかで躓く時がある。…必ず、一度は。だから、だからこそだよ」
「長所も短所も、…見極めなきゃ、始まらない」
今はまだ、スタート地点に向かっているだけ。焦りも油断も、ここでは禁忌。
気を引き締めて、なんてぬるい事も、言ってられない。
…必要なものはたくさんある。全部準備なんて私には出来ないから。
イスターのくれたもの。ウィルヘルムと誓った未来。僚機…ダーウェンさんへの、最大限の感謝の形。

―――『覚悟』だけを、持っていく。