ENo.0256　バルトロイ・クルーガー

霜の巨人へ向かう作戦が発表された。
傭兵達は作戦に従うのが全てであり、そこに己の感情があるかどうかは人それぞれだ。
バルトは戦いさえできればどこでもよくて、極端な話大義のない戦いにだって何度も出ていったことがある。
戦場が好きで、そこに関わる思惑や理想、ましてやそこにいる人々の事情なんてのは関係なかった。

「……」

バルトは自室のテーブルの上で乱雑に重なる資料を手に取った。
ここ数週間の主だった通信から聞こえる残像領域の成り立ちやら今後に関すると思われる言葉をセティが抜き出してくれたものだ。
少しは理解しようと思ってはいたのだが、案の定これが全く頭に入ってこない。難しい顔でしばらく資料をながめるとそのままテーブルに突っ伏した。
ばさり、と資料が舞う。
こんな頭でも理解してるのは今この世界の存亡の危機に近い状態である、ということだった。
そんな話になるなんて想像もしてなかったし、未だに実感は沸かない。霜の巨人を倒せと言われている限りはそうするのが役目ではあるし、正直好き勝手されたままなのは性にあわない。
あと、寒いと酒があまり美味くない。

「……」

起き上がり、頭を軽く掻きながら上着を手に取った。
やるべき事は決まってる。それはもう覆らない。ならば、それをする前にやりたいことをやってしまわなければ。
例えばそれが自己満足だったとしても。

「……ミヅカ、オレだ。少し話がある……大した事じゃねえ……けど、今じゃねえと駄目なんだ……、おう、悪い。今から行く」

一方的な通信を終えると、ポケットに入っているドッグタグを確認する。直接身に付ける事こそなかったが、自らを証明するものとしてずっと肌身離さず持っていたもの。

代わり程度にはなるだろう。自分らしいと言ってくれればそれが一番、嬉しいのだけど。

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