ENo.0084　ODE-30

【音声記録:7095　再生開始】


　難しいな。

　　　難しい、ですか。

　会えば良いだけの話だ、けれど。

　　　そうでしょうね。
　　　けれど、難しいと？

　何を話せばいい？

　　　僕に分かる訳ないでしょう。

　また逃げられたら？

　　　彼はあなたから逃げたのでは
　　　ないと思いますよ。

　だったら、何から。

　　　あなたが怯えているものから。

　………。

　　　あなたとて同じでしょう。
　　　不意に幸せになったものだから、
　　　いつかこの暮らしが、ほんの些細な
　　　ことで崩壊するのでは、と怯えている。

　言ってくれるな、セディオレイス。

　　　ずっと傍にいましたからね、母さん。

　そうか。そうだな。

　　　今直ぐに決めるべきことでもない。
　　　アイツも、もう逃げませんよ。
　　　きっと、ね。

　それは、オードの分析結果か？

　　　いいえ、僕の勘です。

　ふはっ。

　　　ふふっ。

　勘、か。……そうか。そうだな。

　　　これでも、兄弟ですから。

　分かった。会いに行こう。

　　　ええ。
　　　父さんにも伝えますか。

　いや、私が言うよ。
　あの人にも、随分無理を言ってしまった。

　　　分かりました。では、僕はこれで。

　ありがとう。……ああ、そうだ。
　後で買い物に付き合ってくれ。

　　　チーズリゾットでも作りますか？

　む、ぐ。そうだが。

　　　ふふ。
　　　喜ぶと思いますよ、アイツも。

　だと良いけどな。
　それじゃあ、また後で。

　　　ええ、また後で。


【音声記録:7095　再生終了】

とある赤毛の女性が静養している別荘。……と言う噂。