ENo.0110　『Phantom Beast』

鋼獣の足が地面を踏みしめるのを感じる。
一歩、一歩、前へ進んでいく感覚を確かに味わいながら、ヨナは操縦棺の中で深呼吸を繰り返した。
深く吸って、吐き出して――また深く吸って、吐き出して――。
Phantom Beastの中で、戦場の空気と気配を感じながら何度も深呼吸を繰り返すうちに、ざわめいていたヨナの心は落ち着きを取り戻してきていた。

幼い頃からそうだった。
掃き溜めのような街――スラム街の片隅で生まれ、流行り病で幼くして親を失ったヨナは、幼い頃から戦いながら育ってきた。
戦って、噛みついて、抗って――何度も何度もそれを繰り返しながら、自分の命を繋いできた。
だからだろうか。戦う場所にいれば、心がどれだけ荒れていても落ち着きを取り戻すことができる。

ここが、自分の居場所だ。
ここにしか、自分の居場所はない。

「……く、……ふふ、……はは」

今までボイスメッセージを送ってきていた相手が、シルウェストリスの名を騙った人物であったことなんて、どうだっていい。
自分だってエセルバートの後を勝手に継ぐような形で転がり込んだのだから、似たようなものだろう。
フィネデルシェロが一体なんなのかはちょっと気になるけれど、とりあえず今は横に置いておくことにする。

今の自分がすることは、戦うことだ。
戦って、噛みついて、目の前の敵を全て砕くことだ。

自分にはこれしかなくて――これが全てだ。

「はは――はは、はははは！！　知ったことか、知ったことか、知ったことか！！　この先どうなろうと！！」

気が触れたように叫び、吠え、駆ける。
振るった牙が捉えた獲物の装甲を砕くのを感じながら、ヨナは高らかに笑い声をあげた。
頭の中が冴え渡り、高揚感が胸を満たし、一種の興奮と楽しさが全身を駆け巡る。
相手からの反撃を食らうたびに身体は痛むし、一瞬だけ息が詰まりそうになるが大したことはない。

ああ、やっぱり――自分にはこれしかなくて、これが全てなのだ。

――しんとした森の奥の奥深く。
簡単な墓がすぐ傍に作られている家屋の窓には、時折人影が映るらしい。

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主に自分用ユニオン。整備を中心になんやかんやしていく予定。