ENo.0109　エンセイル・フェノメノン

「お前か……？」
出撃まであと数時間と迫った操縦棺の中で、エンセイルは本を抱えて怪訝そうに見つめていた。
事の起こりは前回の出撃時。身に覚えのない「生体部品」「生体電池」の表示。
エンセイルはそういった手術に興味はないし、するつもりもないし、こっそりされていないか確認をしたが痕跡もなかったし、パーツを全部引っ剥がして確認してもその表示は変わることはなかった。
……つまり、疑うべきところは、俄には信じられなくも、もはやこの生きている本以外には残っていないのである。
「はぁーーーー……」
エンセイルはたまらず溜息をつく。どうしてこうも私は生体部品と縁があるのか。
5年前もそうだった。彼女が代理で搭乗していたハイドラには、変な（これはパイの具のようにオブラートに包みまくった表現である）『生体部品』が巧妙に隠されて載せられていた。
不愉快……というわけではないが、あんまり奇妙な縁があってもそれはそれで考えることや心配することは増えてしまうのだ。
「しかしまあ……うん、後でまた考えようか」
首を振り、普段より圧倒的に短い時間での出撃準備に勤しむ。戦場で気を散らすわけにもいくまい。受け入れねばならぬものは受け入れて、明日の風に備えねばならない。

エンセイルの友人であるミソラが店主を務めている古書店

……の、名前を借りたもの
(突っ込まれて渋々説明文を書き足した跡がある)