ENo.0110　『Phantom Beast』

――エセルバート・ハイドランジア。ハイドラライダー。男性。
シルウェストリス航空とスポンサー契約をし、遺跡の調査に向かっていた。
補給ついでにあれこれ聞き込みをして調べた結果、PhantomBeastを操っていた前の乗り手はそのような名前だったらしい。
購入した道具や食料が入った紙袋をPhantomBeastの中に積み込み、ヨナは改めて手元のメモを見る。

エセルバート・ハイドランジア。
そう名乗っていた彼は、幼い頃からハイドラライダーとして活躍していたらしい。
共に戦場を駆けていたウォーハイドラは、格闘機『エストーリャ』という機体だったらしいので、これがPhantomBeastの前の名前だろう。
しかしシルウェストリス航空と契約をし、遺跡の調査に向かっている途中で連絡が取れなくなり、以降行方不明――ということになっていたらしい。
ということは、遺跡の調査に向かっている途中で撃墜され、死亡した――ということになるだろう。

携帯食料を一口かじり、小さく息をつく。
ヨナがPhantomBeast――エストーリャと共に眠っていたエセルバートを発見したときは、すでに酷い状態になっていた。
故に、彼がどのような顔をしていた人物だったのか、どのような振る舞いをする人物だったのか知らないし、今ではもう知ることもできない。
彼のことを知る人物に聞くことができれば、少しでも知ることはできるだろうが――他人から見た人物と、その人物の本当の姿は異なることも多いので、そういった意味では『本当のエセルバートを知ることはできない』だろう。

「……死者について知るというのは、やはり難しいな」

一人で呟いて、携帯食料を全て口の中に押し込む。
死者について知るのは難しい――だが、今回聞き込みをしたおかげで、エセルバート・ハイドランジアという男性についてほんの少し知ることができた。
今回の自分の目的は達成したのだから、これで良しとしよう。

覚えておくよ、ハイドランジア。お前が愛した機体を使う者として、お前のことを。

完全に忘れ去られないように。本当の意味で、彼が死ぬのを防げるように。
心の中で呟いてから、ヨナは慣れた様子でPhantomBeastへ乗り込んだ。

ああ――本当に、らしくない。

――しんとした森の奥の奥深く。
簡単な墓がすぐ傍に作られている家屋の窓には、時折人影が映るらしい。

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主に自分用ユニオン。整備を中心になんやかんやしていく予定。