ENo.0166　ステラ＝アレグレット

「……問題は無し…今のところは、ね」
「今のところ？　なんだか含みのある言い方だねえ」
「この”問題無し”が如何に問題かってことくらい、貴女にだってわかってるでしょうが」


顔合わせ会を終えて帰って来た後、すぐさまステラの義肢のメンテナンスを開始した。
結果として、問題は見つからなかった。
検査室から出て義肢をセットし直したステラは、動作を確かめるように手を動かしている。


「わかってるだろうからハッキリ言っておくけど、問題は”見つからなかった”だけよ。
　貴女が違和感を覚えてる以上、問題は確かに存在しているわ。
　そのままそれを使い続けていれば、何が起こるかわかったものじゃないわよ」


何か別の方法を彼女に提示出来るわけでもなかった。
それでも、別の方法を模索しろと言わずにはいられない。
私のせいで四肢を失った彼女を、私の作った義肢がまた壊してしまうかもしれない。
そんなものは見たくない。
彼女を失うなんていうのは一度だって多すぎるくらいだ。

……この義肢を作った時からわかってた、どうしても回避出来なかったリスク。
擬似神経の過負荷による逆流。
通常の運用ですらリスクがないわけでもないというのに、ハイドラへの接続なんて無謀と言うより他にない。
生身の身体をウォーハイドラに置き換えるようなものだ。
しかも操縦するというものではなく、神経を通して、だ。
企業の想定するように、反応は操縦するより早くなるのだろうが……
そのリスクも想定通りのものになるだろう。
最先端の技術を用いた義肢を譲渡するに足るデータ……ということだろう。


「大丈夫大丈夫。
　ベアがメンテナンスしてくれてるんだから、問題ないよ」


彼女は暢気に笑う。
呆れを通り越して怒りすら湧いて来るようだ。
黒い感情を溜息と共に吐き出す。
ああ、そうだろう。
彼女が私の忠告を聞いたことなんて一度たりともないし、きっとこれからもない。


「……まあ、いいわ。
　ただ、何かが起こった時には手遅れだと思ってね」
「大丈夫、信頼してるよ、ベア」
「貴女からの信頼なんて全く嬉しくもないわ」


応えられない信頼なんか、ただただ重いだけ。
貴女の信頼は、そういうものよ。


ステラは「やれやれ」と肩を竦めてみせる。
「やれやれ」と言いたいのは私の方だが。


「大丈夫、今はもう違和感もないし、何かあったらすぐに言うからさ」
「何かあってから言われても遅いってさっき言わなかったかしら？」
「じゃあ言わなくてもいい？」
「そんなに死にたいなら言わなくてもいいわ」
「じゃあ、何かあったら言うよ」


ああ、そう。
死にたいってわけではないのね。