ENo.0110　『Phantom Beast』

過去にいた人物について知るということは、過去の記憶に触れるということだ。
そして過去の記憶は、他の者が持つ過去の記憶を思い起こさせやすくなる。
――だからだろう。“あのとき”の夢を見たのは。

「……、……くそ……」

目覚めて開口一番、呟いた言葉がそれだった。
頭の中では未だに夢の内容がぐるぐると巡っていて、苦い思いを心の中に広げてくる。
同時に、伝えることのできない――やり場のない言葉が喉の奥に引っかかって、歯噛みする。
揺れる灰汁色の髪が、左右で色の異なる瞳が、快活な印象を与える笑顔が、脳内をちらつく。
あの瞬間からもう何年も経っている――何年も経っているのに、自分は未だに“あの日”から動けずにいる。

「――……どうして……」

口から零れ落ちそうになった言葉を噛み殺して、飲み込んで、拳でベッドを殴りつける。
彼に対して怒りを感じているわけではない、恨んでいるわけでもない――ただ、知りたいだけで。
今はその望みも叶わないと、知っているけれど。

通信端末に入っていたボイスメッセージを再生して、そのあとにニュースを確認してから端末の電源を切る。
とても簡単な食事と栄養補給のためのサプリメントをいつものように口の中へ流し入れ、飲み込んでから、ヨナは早足に外に出た。

時間は早朝。出陣に最適な時間はもう少し後だ。
だが、自分にとって苦い記憶を思い出したからだろうか――今は、相棒であるウォーハイドラに寄り添っていたかった。

「……大丈夫、大丈夫だ。PhantomBeast。戦う時間が来るまでには、落ち着くから」

半分自分に言い聞かせるように呟いて、こつんと額を機体に触れさせて、大きく深呼吸をする。
ひんやりとした早朝の空気を吸い込めば、ごちゃついた頭の中も少しずつ元に戻っていくような――そんな気がした。

――しんとした森の奥の奥深く。
簡単な墓がすぐ傍に作られている家屋の窓には、時折人影が映るらしい。

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主に自分用ユニオン。整備を中心になんやかんやしていく予定。