ENo.0136　エマニュエル・スミス

『モスキート』のアースオーガは何のためにあるのか。

俺はこいつをずっと考えていた。主砲を撃つ時は反動を消すためのアンカー代わりになるし、それなりに便利なんだが、ハイドラに積載する必然性がない。そりゃそうだよな。いくら高速掘進が可能だからって、アースオーガってのは重機が建設工事に使うもんだ。

俺なりに考え、考え抜いた結果が今回の作戦だ。『エイレンスキアハナ』にスピードで追いつくのは、まあ、まず無理だろう。
だが俺は前回、『Red-Purge[火蜂]』を使ってみて気付いた事がある。この機体『モスキート』には奥の手がある。それは、機体温度が臨界まで達した時に、空間の『稜線』を超えて存在が認識されなくなる『モスキート』特有の機体能力。

『同期性空間稜線転移』。こいつを使用し、解除すれば、任意の座標に瞬間移動する事ができる。これで、『エイレンスキアナハ』の航空予測ラインに転移し、一瞬のスキを突いて密着し、アースオーガのテルミット・ケーシングで高速掘進、固着すれば……奴の内部に侵入できるかもしれない。

勿論課題は山ほどある。航空予測ラインが分かったところで、その座標は『モスキート』の索敵能力じゃ誤差が大きいし、何分何秒に来るかまでは正確に測れない。
だから一回目は失敗前提で行く。無理だと判断した時点で俺の命を優先し、離脱する。その代わりもっと優れたフィガロの『Key to Luck』と……あいつ自身の能力で、奴の座標をより正確に特定してもらう。そうすれば次は──うまくいくはずさ。

まるで博打だな。『同期性空間稜線転移』は、臨界に達するまでの間自動制圧射撃モードで時間を稼がないといけない。次の予測航空ルートは、敵陣ど真ん中だ。俺は強制脱出装置を使えない状態で、奴らを蹴散らし、それから、奴の腹の中に入り込み、要救護対象を救出する必要がある。

これまでに体験したどんなオペレーションよりも無茶苦茶だ。手が震えてきた。

ああ

そうだ

武者震いさ。ようやく俺は、何かの為に命を燃焼させる事ができる。

生きる事ができる。

絶対に死んでやるものか。

この充足感

この期待

そして

ああ

フィガロ


お前をまだ、独りにさせるわけにはいかないからな。

必ず戻ってくる。俺は生きて、そして、帰ってくる。救出に成功した後は仲間と合流し、それから、この残像領域からおさらばして……ジンを、キメるんだ。

早く明日になってくれ。明日が待ち遠しくて、ジッポライターの火を点けては消してを、もう、ずっと、繰り返している。

埋火から這い出た俺は、何になれる？エマニュエル・スミスは何に羽化するんだ？教えてくれ『モスキート』。答えはもう、手の中にあるはずなんだ

モニターに映る宿禰はいつも変わらない姿である。設定された姿なので当然なのだが。
「皆さんセクション2攻略お疲れ様でした！デバステイターもどんどん強力になってきています。注意深く進めましょう」
「そういえば、今回HCSに搭載された神話断片……社のアーカイブに何かあったような……？」

ジュネリアの要望を聞いたロドは口元の無精髭を触りながらぼんやりと答える。
「人探し……いや、ハイドラ探し、か……流石にその程度の情報だと何もわからんが……」
一息置き、
「どちらかと言えば『ジュネリア氏が探している』という噂が重要らしいな。まぁ、大した手間でもないし問題ないな……」
「経緯は知らないが、見つかるよう祈っておこう」