ENo.0166　ステラ＝アレグレット

いつものガレージ。
やはりここは落ち着く。
人と話すのは苦手ではないし、嫌いでもないが、やはり少し疲れるようだ。

逆に、彼女は人と話すのが全く苦でないどころか、話していると元気が出てくるタイプなのかもしれない。
顔合わせに出てからずっと上機嫌……いや、上機嫌はいつも通りだが、いつも以上に、ということだ。


「ね？　顔合わせ、しておいて損はなかったでしょ？」


ステラが得意そうな顔をして言う。
まあ確かに得るものが全くなかったわけではない。
むしろそこそこに有意義な時間ではあったことは認めよう。
しかし私はその分疲れたし、素直に良かったとは言えない。
ついでに言えば、彼女の無茶苦茶に良かったという前例を作ってしまうのもあまり良くない。
今後、「前も大丈夫だった」などと言い出されては面倒なことこの上ない。



「損はなかったかもしれないけどね、結局のところ、私たちの抱える問題の解決にはなってないでしょうが」
「問題？」
「だから、あの子が戦闘で頼りになるのかって話よ。
　仮に機体性能があったとしても、使いこなせないならまるで意味がない。
　あの子に、博士が作った機体の性能が引き出せるのかしら？」


ああ、その話か……とステラは頬を掻く。
ええ、わかっているわ。
顔合わせに行って、ハッキリした。
この話はもう、とっくに解決しているのだということを。
しかしだからこそ、もう一度釘を刺しておきたい。


「大丈夫だよ。その博士だって、何の考えもなく15歳の女の子にテストパイロットなんてやらせないって。
　あの機体だって簡単には壊れないと思うよ」
「その根拠は？」
「だって、テスト機にしては個性強すぎだし、量産だって出来そうにない機体だよ？
　機体もパイロットも沢山用意してのデータ集めならともかく、アレはそうじゃない。アレ1機でデータを集めきれる算段があるんだ。
　ということは、つまり、あの機体はそう壊れない計算になってるんだ。少なくとも、博士的には」


うん、私もそう思う。
使い捨てじゃないんだ、あの機体は。
大事な機体、簡単に壊されては困る機体、簡単に死なれては困るパイロット……
そのうえで、博士が、あの子をテストパイロットとして乗せて運用している。



「……言いたいことはわかったけど、その計算だって確実じゃないし、貴女は博士のこと知ってるわけじゃないでしょ？」
「何言ってるの？　ベアだって技師なんだから、わかるでしょ？　機体を見ればさ、アレを作ったのがどういう人なのか、なんとなくさ」
「……」
「それに、どんな手を打ったって、100%完璧にはならないよ。
　どんなに頼りになる仲間が居たって、戦場に出る以上は100%の安全なんて保障されるわけじゃない。
　確率は上げるに越したことはないと思うけど、私達は今これでベストな手を打ってると思うよ」


……それだ。
それなのよ、ステラ。
貴女の、その、死んでも仕方ないともとれる発言が、私は気に入らない。
貴女には100%確実に生きていて欲しい。
そんな簡単に自分の命を張らないで欲しい。
そうでなければ……


「まあ、とにかく、大丈夫だよ。
　戦闘での問題は、とりあえずは、ね」


……ひとつ溜息をつく。
そう、心配ばかりしている場合でないことも確かだ。
問題はそれ以外にも山積みなのだ。

顔合わせでの会話を思い出す。
確かに、得るものはあった。
一番に対処すべき問題は、やはり……