ENo.0166　ステラ＝アレグレット

出撃と出撃の合間。
仕事がないとはいえ、すべきことは山ほどある。
身体を休め、英気を養うのも立派に仕事のうちだろう。
彼女にとって、コレもそうである…というなら、まあ私から文句は言うまい。
実際、彼女は上機嫌なようで……いや、上機嫌なのはいつものことのようにも思うが
ともかく、今、目の前で、鼻歌混じりに楽しそうにメニューを捲っている。
外に食べに行くのは構わないが、これから例の相方と会うというのは気が進まない。


「なに？　まだそんな顔してるの？」


ステラがメニューから顔を上げて、私を見る。
どうやら、表情に出ていたようだ。
彼女の上機嫌と同じように、私の不機嫌顔もまたいつものことのように思うが、どうも彼女には違いがわかるらしい。
そんな細かいところまで気がつくなら、もう少し私の機嫌を悪くさせない行動もとれそうなものだが
……彼女の場合はわかっていてやっているのだろうな。
そんなことを考えながら、ひとつ溜息をつく。


「まさか本当に待ち合わせ場所に行くとは思わなかったわ」
「そりゃ行くよ。約束したんだから」
「貴方ね……どう考えたって15歳の女の子の返信じゃないでしょ。
　本人からの返信じゃないなら、少しは警戒して当然でしょ？」
「まあ15歳だからね、保護者くらい居たっておかしくはないでしょ？」
「保護者つきの子供に戦場の相方が務まるわけないでしょ？」
「まあまあ、会う前から悪い方悪い方に考えちゃダメだよ？
　人の印象なんて一度悪くなったらなかなか戻らないものなんだからさ」


もう一度深く溜息をつく。
彼女と言い合っても時間の無駄だということは身に染みている。
彼女の呑気さは一度だってブレた試しがない。
そのくせ、彼女の言葉は妙に理屈では反論しづらいから質が悪い。
"彼女が心配だから"という大本を否定されてはお手上げなのだ。

彼女にとってみれば、私の心配なんかは大きなお世話なのだろうな。

そんなことを思いながら、彼女の手をチラリと見る。
うん、正常に動作してる。
彼女の義肢は私が開発したもの。
だからこそ、もし仮に不具合が発生したとしたら、どうなるか？　ある程度は予測がつく。
そもそも、あの義肢を使ってのハイドラへの接続……
それに付き纏うリスクがどうにも解消出来なくて、あの義肢の研究は枝葉の技術として切り捨てられたんだ。
それを自分の親友に人体実験させることになるなんて……心配するなという方が無理がある。

そんな心配を他所に、ステラはメニューを眺めるのを一通り楽しんだ後、それを閉じて、私の顔を覗き込む。


「とりあえず、今は難しいことは考えないでさ。
　笑顔……は無理なら、いつも通りでいいからさ」
「私は普段からこういう顔よ」
「あ、ひょっとして緊張で強張ってるのかな？　ほぐしてあげようか？」
「やめろ馬鹿。……はぁ、わかったわよ。いつも通りでいいんでしょ？」
「うんうん、折角の顔合わせだからね。……ほら、来たみたいだよ」