ENo.0203　ネリー・アイシャム

ネリーは『オールドローズ』の15Fから繁華街のネオンを眺めていた。彼女には珍しくひとりきりで。
なんとなく、その気になれない夜だった。

ひとりで眠ることのできない彼女には、長い夜になるだろう。
彼女の思考は、闇の中をとりとめなくめぐる。

ルート・ロックサイド。彼はわかっているのだろうか？
ネリーも、彼の両親を殺した相手と、同類であるということを。
５年の歳月は彼女自身にもそれを忘れかけさせていたが、ラスティ・ネイルと出会ったことで完全に思い出した。
血と硝煙。自身に染み付いたその匂いを。

ネリーは非合法組織に所属し、狙撃手として何人もの命を奪ってきた。
非戦闘員を撃ったことはないし、『依頼人』に新しいよりよい人生を与えるという建前はあったが、
人殺しは人殺しに過ぎない。

道を外した人間に、真っ当な幸福など望むべくもない。
ハイドラライダーも似たようなものだろう。

それなのに、いつ死ぬかもわからないのに、結婚して家庭を持とうなんていうのがそもそも間違いなのだ。
だから残された君が、こうして苦しむ羽目になっている。恨むなら、殺した相手ではなく自分の両親を恨むべきだ。

そう思ってしまうのは、自分自身の罪の意識からだろうか？
きっとネリーが殺した相手の中にも、子供を持つ親もいただろうから。


ネリーは子供なんて欲しくなかったし、きっと戦いの中で誰にも看取られずに死ぬんだろうという予感があった。
そうした時、一体自分の人生はなんだったんだろうか、と悩むような段階はとっくに通り過ぎていたけれど、
それでも、最期に自分が何かを残したと思えるような人生なら、そうだったら素敵だなと思うのだった。

ネリーが寝泊まりしている安ホテル。
繁華街からやや離れた人通りの少ない裏路地にひっそりと建っている。

非常に狭くてサービスも悪いが、宿泊料さえちゃんと払っていれば、銃器・男・飼育用バイオ兵器etc……何を持ち込んでも詮索されないところが気に入っている。
が、シャワーのお湯がぬるいのだけはなんとかして欲しいと思っている。