ENo.0398　“Neon”

　
「耐霊火炎放射器……ねえ」

精査するように丁寧に企画書を追っていた二粒の水色が、こちらを見上げる。
ぬーん、と唸り出しそうな声と目つき。
しかし返ってきた答えは、

「……ま、いいわ」

ぱさり、とブリーフィングルームのテーブルに書類を置いて、少女の瞼が伏せられる。
回転式のチェアの背もたれにもたれかかって、たん、と床を蹴り。
そのままくるりと回ってみせた。

はぁ、と静かに息をつく。
ここ数日、アセンブルについて話し合っている横には彼女もいたのだ。
難癖をつけられることもないだろう、とは思っていたが。

許してさしあげてもよくってよ、と言わんげな尊大さだが、こちらもこちらでやりたいことは通しているのだ。大きな口は叩けない。
室長と整備士と、グラン自身と。男三人顔を突き合わせてああでもない、こうでもないと相談しあった結果、前回に比べて更に機動のことしか考えていない構成と成り果てている。

ふわり、と背にかかる髪がなびいて、落ちるほどの間の後。
再び視線が合う頃には、少女は微笑んでいた。


「放電コイルなんかよりは“撃ってる”感じがするしね。そのうち物理火器もほしいとこだけど」
「そのへんは敵さんと相談だな」
「ん。約束は守ってくれたことだし。とりあえず及第点ね」
「……そりゃーどうも」

こうして同部署の所属になるまで縁がなかった相手だ。
個人的な話題であることもあって、入社するまでの経緯について尋ねたことはないが。
『自分の主張を通す』のがうまいところを見ていると、少なくともあまりそういった苦労はしてこなかった、のだろうと推測できる。
わがままだけを通すのではなく、こちらのそれも聞き入れた上でのこれ、というあたり。実にタチが悪い。


「でも、このアセンはあたしもバカだと思う」
「…………」

飾りのない、正直すぎるくらい正直な感想。
まったく、このお嬢さんは容赦がない。
付き合うようになってからこちら、随分とグランのため息の数は増えた。


「……正直、俺もそう思う」
「あっははは！　自分で言った！」

けらけらと声も高く、少女が笑う。
また椅子が回って、数瞬ののち、すたんと降り立つ音がした。


「さっ。そうと決まったらパドに伝えてこなくっちゃね。きっと首を長くして待ってるわよ」
「……ん、」

元気よく歩き出した少女の背は、既に入り口の向こうに消えようとしている。
はやくー、と急かす声にへいへい、とだるそうな返事を返して。一歩、踏み出す。


名残のように、空っぽのチェアだけがくるくると、楽しげにダンスしていた。

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