ENo.0085　萌え声

――私の意志とは裏腹に世界はあらぬ方向に順調に進んでいる。
なんのために戦うのかを見いだせずに戦う日々は、自分の足場が崩れそうになる感覚を与えている。

私が感情を出してしまったメッセージ。
顔なじみのメカニックのおかげで始末書を書かずに済んでいる。
相手からの返信がなかったことに感謝するべきだろう。

しかし、受け取られなかった感情はもう一度私の中に戻ってくるしかない。
もう三週間も前のことなのに、はしゃぎすぎたバイキング料理の翌日ように未だに消化しきれずにいるそれは、
まとわりつく霧に重さを感じるほど、私に気怠さを与えていた。


――なにかもが上手くいかない

そう思っているのだが、戦場では不思議と感覚が研ぎ澄まされているようだ。
ボスに笑顔を与える戦績をキープしていた。

戦場の成績が私の存在価値だったのに、今はそれに虚しさを覚えるだけだ。
今の状況で技術を見せ続けることになんの意味があるのだろうか。
観客のいないピエロなどただの滑稽でしかないじゃないか。

いっそのことボスのミッションを無視してやろうかとも思ったが、
結局なにも変わらないのは分かっている。

結局のところ、世界が滅ぶと言われている中で、私は明るくハッピーに
ハイドラに乗ることなんてできるはずがないのだ。
この気怠さを抱えたまま、あと4回の出撃をするしかないのだ。
私はその生き方しか知らないし、またそれしかないのだろう。
この果に、死とか、破滅とか、崩壊とか、そういうくだらない未来が待っていないことを祈るばかりだ。

民間軍事会社ローレライ

『萌え声』のハイドラが保管されている施設の所有企業。

主要サービスは武力の提供。要請があれば企業・個人問わずにハイドラ（パイロットを含む）を派遣している。
最近ではサービスの幅を広げ、兵站・整備などの後方支援、新兵の訓練なども請け負い始めた。こちらの方面でも業績を伸ばし始めている注目の傭兵企業である。

派遣する武力は数よりも質を優先するのが特徴。
戦闘任務の際には必ず、自グループで結成した部隊で参加し、独立した指揮権を要請する。
「パイロットの個人情報保護」の名目で依頼者にパイロットデータを渡さないことも珍しくない。
なんとも癖の多い傭兵企業だが、額に見合うだけの結果を残すため依頼者からの評価は高い。


今回の招集に対しては"金にならない"と感じているが立場的に断るわけにもいかず。
『萌え声』だけを派遣している。