ENo.0009　ヴィンス・ナイトレイ

「もしもし――はい、お久しぶりです。ヴィンスです」
……
「ええ、ええ――そうですね――すいません、もう少し仕事が落ち着いたら――はい。近いうちには」
……
「――えっ、そうなんですか？――ああ、なるほど。そういえばもうすぐですね――間に合えばいいけど――」
……
「大丈夫ですよ、俺は元気ですから――はい、そうしてもらえると」
……
「ええ――ちゃんと――帰ります。それじゃあまた」


＊


　受話器を音が出ないように置き、ヴィンスはぼおっと立ち尽くしていた。久々に聞いた叔父の声は、受話器を手放してもまだ頭の中をぐるぐると回っている。
　両親はヴィンスが13歳の時に他界している。その後幼い3人の兄弟たちと共に叔父夫婦に引き取られ、それからは新しい家族として過ごしていた。
　一人暮らしを始めてからも、時々電話をかけて声を聞かせるようにしていた。しかしここ最近は忙しくて時間が取れなかった――し、ライダーとしての仕事を始めてから、なんとなく敬遠していた節もあった。心配をかけているのはまだ若いヴィンスでも十分にわかっていたからだ。

　『怪我しないようにね』。学校を辞め、仕事を始めてから毎日かけられた言葉。自分の子ではないから特に、というのもあっただろう。
　正直なところ、ヴィンスとしては軽視していた時もあった。力仕事でなくとも、それこそ軽作業にも満たないアルバイトの日であっても同じことを言われたからだ。
　……ただ、今は違う。
　強固に守られた操縦棺の中で、怪我をするということは命に関わるものがほとんどだ。最悪の場合、怪我をしたという自覚だってないままに――

「……っ」

　先の戦闘で撃墜された時のことを思い出し、頭を抱える。
　出撃時は生存を優先し、脱出できるようにしているし、保険もかけている。それでも、もし、万が一……。
　しかし、それでも攻めに行かなくては他のライダーに報酬をとられてしまうのが戦場だ。無駄撃ちした分だって弾薬費がかかるし、生き延びるためだけに武器を振るっても、儲けが出ない。……それではこの仕事を選んだ意味がないのだ。

「はは……全く、すごいな……ハイドラライダーってのは」

　誰に言うでもなく呟いて、畳んであったパイロットスーツを掴む。
　今日は得体の知れない敵がいるらしい。ちょうどいい、度胸をつけるのにぴったりじゃないか。

　出撃まであと1時間。戸締りを確認して、ヴィンスは部屋を出た。

「えーっと今回はセクション攻略戦ですね」
「情報が錯綜していて……デバステイターに関する情報も解読が間に合っていないようです。古文書？にはあったらしいんですけど、僕らはこちらでは新参だからデータベースの蓄積も浅いですからね……」
「各戦場、十分注意していきましょう」

「あ、ファティマさんがご活躍されてるコロッセオ、盛況でよいですね！こうして宣伝していただけると僕らも助かりますし」
「オルトくんところから出してるレーダーの売れ行きもいいみたいで！バンバン売っていきましょう！」