ENo.0109　エンセイル・フェノメノン

レーダー、それは戦場の目である。
他にも索敵機能を持ったパーツはいくつか存在するが、索敵の代名詞といえば、未だレーダーがその座を譲ったことはない。

霧の戦場において、索敵能力を持つ機体は、素早く動くことで誰よりも早く敵を発見し、味方が敵を見つけられずに無駄足を踏むことを防ぐ。
無駄足を踏まずに済んだ機体は、見事敵を攻撃し、あわよくば撃墜せしめ、勝利へと一歩近づく。
そして敵が減るということは、その分敵の攻撃の勢いが弱まることを意味する。となれば味方の機体が生き残りやすくなるということは想像に難くない。
つまり、索敵機体は攻防共に恩恵があると言っても過言ではなく、その最たるものである、レーダー支援は歓迎される傾向にある。
……だが、その「索敵の恩恵を受ける味方」の括りには、勿論自分も含まれる。
そもそもがだ。早いもの勝ちの戦場でちんたら索敵機を待って上げ膳据え膳食べるだけ……というのは些か悠長が過ぎる。誰よりも早く敵を補足し、ぶっ飛ばし、スタートダッシュを決める。他の機体に据え膳を用意してやろうがそんなことはどうでもいい。奴らが食べるのは「食べ残し」だ。それがエンセイルの方針だ。少なくとも、今は。
ハイドラの接続端子はわずか9つ。そのうちの複数枠を、わざわざレーダーのみに費やす。他の機能を持たず、索敵能力に特化した、不器用なレーダーにだ。それでやっと自らの求める最低限度の索敵範囲が得られる。作戦が進んでいけばいずれはレーダーも高性能になっていき、端子数を圧迫せずに済むのだろうが……。ともかく、エンセイルにとっての索敵は、それだけの価値がある。

ただこの索敵、一つだけ問題がある。
「評価がやっすいんだよなあ……」
はぁ、と溜息をつくエンセイル。頭をブンブンと左右に振って気持ちを切り替えようとするが、それで評価がよくなるわけでもなく、金色のポニーテールが顔面に叩きつけられるだけに終わってしまった。
索敵に枠を割いているのは、とにかく早く敵を食い散らかす"道楽"のためで、あまり評価されなくとも承知の上――頭ではそう思っていても、得られる評価(収入)が安いのを額面でまじまじと見せつけられると、正直あまり気分のよいものではない。
この件についての上からの見解としては、こうだ。
『索敵は必須ではあるが、だからと言って全員が索敵のみに従事してしまえば、敵の撃滅が疎かになり、結果として勝利が遠のいてしまう。敵の攻撃が苛烈である以上、我々にはのんびりと戦っている暇はなく、速やかな撃滅こそが勝利への道であり、索敵のこれ以上の推奨は不要であるし、むしろ索敵の推奨を強めることは、本末転倒の事態を引き起こしかねない』
言ってることはまあ分かる。舵取りが難しいことも分かってはいるのだ。索敵しかできない機体が20機集まったところで、スクラップが20機分増えるだけだ。だから、敵を撃滅する上で、最低限の索敵と、無駄なく動ける火力がいればそれでよいのだ。蓋し正論である。
ただ、気持ちの問題というのは、正しい正しくないの問題ではない。正しくなかろうと気にならないこともあれば、正しくとも腹が立ったり不快になったりすることはある。誰も悪くない問題であるからこそタチが悪い。

と、まあ鬱々としていたところに舞い込んだニュースがある。エンサイクロペディア・フラグメント。多々重レーダー装備による遺跡データのハッキングをもって、味方のHCSに一時的に特異な力を与える技術。概要は不明だが、レーダーを5基装備することで可能になるという。種類を問わないとのことだが、索敵行為に誘発されるらしく、となるとわざわざ遅れて行う必要もないだろうから、ある程度は搭載されるレーダーの候補は絞られるだろうか――と、わくわくしながら考えていたわけだが、悲しくも、ある一つの事実にたどり着いてしまう。
「足りないじゃん！」
そう、足りないのである。何が？ 何もかもだ。
今のままのスタイルで追加でレーダーを載せようとすれば接続端子数が足りず、積載が足りず、ENが足りず、かといってエンサイクロペディア・フラグメント一本に絞ろうとすれば物足りず。少なくとも、実戦投入しようとすればかなりの要素を切り詰める羽目になるであろうことは火を見るより明らかだ。
エンジンレスも視野に入れたが、それでも大変であるし、そもそもエンジンレスでまともに動き続けることは不可能に近いため、一発ネタの域を出るにはずいぶんとかかる。
「まだまだ専業向けってとこかなあ……」
ままならないなあ、と溜息をつきながら、エンセイルは背もたれに身を預ける。安っぽい背もたれが、ギシッと不愉快な音を立てた。

エンセイルの友人であるミソラが店主を務めている古書店

……の、名前を借りたもの
(突っ込まれて渋々説明文を書き足した跡がある)