ENo.0109　エンセイル・フェノメノン

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イキジビキ
「生きている」とは、どういうことだろうか。
死んでいないこと、自由に体を動かせること、自由意思があることetc...人によって定義は様々だが、そこの論争はとりあえず脇に置いておいて欲しい。
生物でないはずの物体が、自由に動き、意思があるかのように振舞い、そしてその疎通も可能である(ように見える)のであれば、それは比喩的にでも「生きている」と呼べるのではないだろうか。これからするのは、そういう話である。
イキジビキとは、本である。そして、それは生きている。宙に浮いて自由に動き、意志があるかのように振舞い、そして意思の疎通が可能である。しかしあくまでも本なので、破れるし、燃えるし、シミはできるし、朽ち果てる。そういう不思議な存在なのだ。

そして、それ以上のことは何一つ分かっていない。どうして動くのか。意思を得るのか。何も。
「生きている」だけのことしかわからない本なのである。

追記
イキジビキの名の由来について、先日有力な説が提唱されたため、追記する。
全く同じ音の、生き字引から来ているというものだ。これは、元来は博識な人間のことを字書や事典になぞらえて表現した尊称であった。それが時と共に「字引」の部分が本全般を表すようになり、文字通り生きた本を生き字引＝イキジビキと呼ぶようになった……というものである。
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「なに　この　なに」
『見ての通りだねえ。見えないけど』
「そういうことを聞いてるんじゃなくてさ」
『ワールドゴージャー』操縦棺。エンセイルの頭の上には、一冊の本が乗っかっていた。
エンセイルが頭を傾けようと、首を振り回そうと、それはぴったりとくっついているかのようにエンセイルの頭を離れず、時折楽しむかのようにくるくると回転さえしてみせた。
「生きてる本なんて聞いたことないんだけど」
『一緒に送った本の中に、言及してる部分があるよ』
「ちょっと！ そういうことは先に――」
『まあ大したことは書かれてないんだけど』
「言わんでよかったわ」
エンセイルは不服そうに口を尖らせた。なにせ、丁度本についての記述を見つけたはいいものの、ミソラの言葉通り、大して情報を得られなかったのである。
『ただね、一つ確信してることがあってさ』
これは本屋としての経験なんだけど――と、茶色いカーリーボブの毛先を指で弄びながら勿体ぶるミソラ。チラチラとカメラを見遣る視線は、エンセイルに続きの要求を急かしているよう。
「……」
『……』
勿論エンセイルも分かっているので、敢えて乗らずに黙りこくる。しばらくの間、沈黙が場を支配し、本の動く音だけが響いていた。

『ああはいはい、私の負けですよー』
先に音を上げたのはミソラだった。
『本はね、日光に弱い』
「同じくらいっていうかそれ以上に霧もダメだろ！」
『そういえばそうだったわー』
「絶対わかっててやったでしょ」
ふん、と鼻息荒く腕を組むエンセイル。相手がミソラでなければ通信を切っていたほどの勢いだ。
『まあほんとのことを言うとね、なんかハイドラに興味持ってるっぽかったから』
「っぽいってだけで事前連絡もなしによこすのか」
『本屋だから本の気持ちがわかるのさ☆』
「胡乱発言やめろ」

エンセイルの友人であるミソラが店主を務めている古書店

……の、名前を借りたもの
(突っ込まれて渋々説明文を書き足した跡がある)